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第三十二話 綸言汗の如し
俺は、薄暗く狭い小部屋に居る。エアコンの効きが悪いのか、蒸し暑い。
「はい。では、あなたのお悩みを教えてください」
テーブルの向こう側に座っている女が、可愛らしいアニメ声で尋ねてきた。
声だけでなく、外観もアニメに出てきそうな巨乳キャラだ。大きな胸と引き締まった腰が、妙に現実離れした感じ。
そんな体つきに反して童顔で、綺麗というよりは、可愛いという言葉の方が適している。
女は手元でタロットカードを切っていた。
そう、ここは占いの館。
カードを切る手がぎこちないけれど、本当に占えるのか?
年齢は大学生の俺よりは上だろうが、三十歳には至っていない感じ。
「占いって、過去を聞かずに当てるもんじゃないのか?」
タメ口で話すことにする。
どうにも舐められている気がしてならなかったから。
「色んな流派があるんです。私はまず、相手の話しを聞く派なんです!」
女がプッと頬を膨らませ怒ったような表情をみせた。
また、それがアニメに出てきそうで様になっていた。
「言いたくない。聞かずに占ってくれ」
「話せないなら、帰ってください。お代は、基本料だけにしておきますので」
あの事件以来、気がおかしくなりそうな日々を過ごしてきた。
これまで「新興宗教に入るヤツの気がしれない」そう思って生きてきた。しかし、今なら分かる。こういった精神状態の人間が入信するのだ。
トラウマを背負い、自分一人では乗り越える事ができない。
そんなときに、親身に話を聞いてくれ「この壺を家に置くと、神様があなたを救ってくれますよ」などと言われたら、有り金をはたいて買ってしまうだろう。
そのレベルまで追い詰められていることは自分でも分かっていた。
だから、占いの館へ来たのだ。
誰かに「あなたは、こうすべきです」と言ってもらうために。
宗教に走っていないだけ、マシだと思う。占いならに高額の何かを売りつけられるわけじゃない。
有名な先生に見て欲しかったわけではない。だから、駅の路地裏にあるここにきた。SNSで場所だけが発進されており、コメントは数件だけ。
「お代は1500円にしてあげます。さっさと払って、お引き取りください」
「話せばいいんだろ、話せば」
俺は、あきらめて話すことにした。
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