第三十二話 綸言汗の如し

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* * *  去年の夏、海で親友が死んだ  大学三年生の夏休みの出来事。  とても暑い日が続いていた。  俺は同じゼミの和真と美由を誘って、海水浴に行った。男子二人に女子一人。  周囲からは「一夫多妻の逆か?」と揶揄されるくらい、三人で良くつるんでいた。といっても、カップルはいない仲良しグループ。  和真とは大学入学時からの親友。そこに美由が混じった形だ。  スタイルが良く、顔もいい美由は良くモテた。何人もにアプローチをされても、まったく付き合う様子はなかった。  和真も俺も「なんでだよ?」と尋ねたが「今は、三人でいるのが楽しいの」とはぐらかされた。俺としては都合が良かった。だって、大好きな美由と一緒に居られるのだから。  俺が美由に気があることは、和真にしか言っていなかった。「告白すれば?」と提案されたこともあったが、出来なかった。  うまくいっても、いかなくても、結果的に三人の関係性が変わってしまう気がした。  その点では「今は、三人でいるのが楽しい」に賛同していた。  でも、それはあの海水浴の日までだった。 「私、焼きトウモロコシ買ってくる。あなたたちもいる?」  三人で砂浜に寝転がっていたが、美由がむくっと起き上がってそう言った。 「俺いる」 「俺も俺も」  美由は「料金はあと払いでお願いしまーす」と言って、海の家へ駆けて行った。  その後ろ姿を見送ったあとだった。  和真が勢いよく立ち上がって、こう言った。 「話がある。付き合ってくれ」 「ここじゃ、ダメなのか?」  和真は首を横に振って、親指を立ててあっちへ行こうと示した。  浜辺を歩き、岩場を上った先。海水浴ゾーンからは離れた位置。 「おお、こえー」  和真は、眼下の岩に打ちつける波を恐々と眺めた。彼は水泳が得意ではない。だから、ライフジャケットをしっかり着込んでいた。  スポーツ万能で背が高く、球技ならなんでもござれなのに、泳ぎだけはダメだった。  対して俺は、高校まで水泳部。水泳だけが、彼に勝てるスポーツだった。 「話ってなんだ?」  美由がトウモロコシを買って戻ってくる頃。早く戻らないと、困らせてしまう。  和真は俺の方へ向いて、視線をしっかり合わせた。そして、言った。 「俺、今日の帰り、美由に告白する」
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