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神の意志
遠い過去だが、つい最近のように感じる。
それもそうか。彼はずっと眠っていたのだから。
あれからどれくらいの時が経てば、この様な生の摂理に反した芸当ができるようになるのだろうか。
彼は、自分を目覚めさせた者へと顔を向けた。
彼の視線の先では、小さな子供が優し気な微笑みを向け、彼を見めている。
「生き物にとって、新しい生命を生み出すことは、神から与えられた義務なんだよ。その命が朽ちていくのも、神が決めたこと」
彼は、静かに子供の言うことに耳を傾ける。
子供は言い聞かせるように、ゆっくりと語った。
「君が生まれ、死ぬ。例え蘇ったとしても、一度失った生命がまた新しくこの世界に誕生したことに、変わりはない。そして、いつかまた朽ちてしまうことも」
蘇った。その言葉に、彼は動揺する。
死が終わりだと思っていた彼にとって、それは認めがたいことだった。
「私が生まれ、生き、死んだ理由は何だったのでしょうか?」
彼は子供に問いかける。
子供は顎に手を当て考える仕草をし、困ったように笑った。
「君の人生に君自身が理由を見つけられないのなら、僕が答えられることは一つ。神の意志。それが一番わかりやすい答えだよ」
「神の意志……」
彼は俯き、子供の言葉を繰り返した。自らに言い聞かせるように、何度も繰り返した。
何度目かの繰り返しの後、彼が顔を上げ子供の方を見た。
子供は先ほどと同じ場所にずっと立っている。
彼と目が合うと、子供は優しく微笑み返した。
「君は神の意志で、再びこの世界に蘇ったんだよ」
子供が彼に手を差し伸べる。
「これからよろしくね」
彼は差し出された手をしばらく見つめてから、握りしめた。
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