最善編

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両親の縁を修復不可能な程に切るために入れ墨を入れたのだろう。棗夫妻は双子の漣だけを可愛がっていて善は蔑ろにしていた。でもそのうち、漣の方が何かしでかして庇うこともできなくなるかもしれない。ていうか今がそうなのか。 そうなったら漣に見切りをつけて善にすり寄ると考えられる。そうなった時に惑う事のないよう、善はタトゥーを入れた。善良なつもりの棗夫婦はそのタトゥーに引くはずだ。そして勝手に諦められる事を善は望んでいる。 けどそれは『もし両親に手のひらを返されたら善は許してしまう』ということでもあった。縁を切ったと理解しているしもう両親の関心を得られない自覚のある善でも、もしかしたら許してしまうかもしれない。内心、彼は両親の愛を望んでいたのだ。 「……善は今、叔父さんに引き取られて幸せなんだよね?」 「それはもちろん。あぁ、そうだ。今度瑠璃も一緒に食事でもどうかという話もある」 「いいね、それ。私も勝手に理事長室使いまくってたし、ちゃんとお礼を言わないと」 善も家族を失ったようなものだ。それもうちよりずっと前に、うち以上に悪い形で。そんな彼が、叔父という保護者には恵まれて本当に良かったと思う。 私は善の恩人かもしれない。でも変わらず善は私の恩人でもある。事件のせいで失ったものを少しでも取り戻したい。その思いでこれからも私達はつるむだろう。 ■■■ それからの話。 夏休み中に私と善は警察や関係者の家に行き、真実を伝えた。 まずは父の家に行き、叔母が爆弾を用意していた事、亮太くんの死の真相、この間やってきたイケメンはニセ善であることを伝えた。 父は意外にも納得していた。自分の妹が子を亡くし落ち込み、その犯人を責めるなど、事件後の衰弱ぶりを見てきたからだ。 叔母がおかしくなったと皆言っていた。でもこうして何があったかを知れば納得できる。子を愛する親ならばこうなっていてもおかしくはない。うちの母も話を聞いて、もっと親身になるべきだったと後悔していたほどだ。 その後、うちの父と共に警察に向かった。もう死んでいる叔母の罪はほぼ問われない。しかし神崎は正しく罰せられるだろう。 そしてもう一つ明らかにしなければならないことがある。棗漣が亮太君を殺したようなものである事だ。 叔母はもう亡くなっている。だからその叔母の元夫、秋原の叔父さんに伝える。しかし秋原の叔父さんは元から息子の育児には関わっておらず、家族という感覚はぷつりと切れていて、他の人と家族をやっている。棗を訴える気はないらしい。 その棗は本人が危惧していたように過去にやらかした事を掘り起こされて仕事を失った。小学生の頃からいじめをして、その被害者は亮太君以外にもいる。そんな危なっかしい人間を芸能界で使えないと各仕事は手を引くし、そのうち被害者皆で訴えるらしい。 まぁ、本人は若いし芸能人さえ諦めればやり直しもきく。彼の両親だって昔にまともな善ではなく彼を選んだんだ。最後まで面倒を見る事を願う。
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