さようなら、ベネディクト

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「違いますよ。ただ、一人になりたいんです。私はもともと、他人と接するのが苦手です。一人の方が楽なのです。だから、お願いですから、私を、一人にしてください」  一言一言はっきり口にして、手首にある温かな指先をほどく。  その瞬間、ベネディクトが切ない表情を浮かべた。何か言おうとして口を開くが、私の無表情に何と言って良いか分からなくて、口を閉じる。  言葉を探して、必死に私を引き留めようとしてくれる彼の優しさに、胸が苦しくなって、涙がこみ上げそうになる。   (ごめんなさい。あなたに、そんな顔をさせたくなかった。ごめんなさい。こんな方法しか思いつかなくて、ごめんなさい。ベネディクト)  顔を見られたくなくて、私は彼に背を向けた。 「さようなら。ベネディクト」  「ミスティ!」と名を呼ぶ彼に答えることなく、私は廊下をまっすぐ進んだ。  彼は右の玄関口へ、私は左の執務室へ。それぞれ別の道を進めばいい。    歩いているうちに、まるで暗い海に沈んでゆくように視界がゆらゆらと揺れた。    涙が危うく零れそうになるのを、すんでの所で上を向いてこらえる。 (剣試合、頑張ってくださいね。お兄さんが叶えられなかった夢を、絶対掴んでください。あなたは喧嘩っ早い所があるから、トラブルには気をつけて。ちゃんと食べて、寝てください。あと、間違った言葉を覚えないように。あとは)
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