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物語は衝撃現場から始まる
「僕が本当に愛しているのは君だけだよ。マリー。ミスティとは1年ほどで離婚して、必ず君を迎えに行く。だから、もう少し待ってほしい。あぁ、愛しているよマリー」
婚約者のエリックが落としたペンを届けようと追いかけた結果、ひとけのない森林公園の一角で、彼の秘密の逢瀬を見てしまった。
私、ミスティ・オルランド伯爵令嬢は、冷たくなる指先を両手で握り締めて、じっと二人の様子を見つめることしかできなかった。
エリックは、私が見ていることにも気づかず、本命の女性――私の親友であるマリーの額に口づけを落とす。マリーははにかみつつ、大げさな憂い顔で俯いた。
「エリック様、私不安なんです。あなたの心が、いつかミスティに向かうんじゃないかって」
「そんなこと、あるわけがないだろう。僕にとってミスティは、うちの商会に貴族の箔をつけるためのお飾りだ。愛なんかない、むしろ僕は気の強いミスティが苦手なんだよ。僕が女性として愛しているのはマリー、君だけだ」
私は、箔をつけるためのお飾り……。
エリックの言葉に、傷つくよりもあきれの気持ちがわきあがってきた。
私とエリックは家同士が決めた許嫁だ。挙式を来月に控えている。
貴族との繋がりや人脈、お墨付きが欲しいエリックの実家、スイート商会。
対して、商会の財力や将来性に期待している我がオルランド伯爵家。
平民と貴族、一見不釣り合いな結婚に思えるが、今の時代、そう珍しいことでもない。
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