物語は衝撃現場から始まる

1/3
905人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ

物語は衝撃現場から始まる

「僕が本当に愛しているのは君だけだよ。マリー。ミスティとは1年ほどで離婚して、必ず君を迎えに行く。だから、もう少し待ってほしい。あぁ、愛しているよマリー」  婚約者のエリックが落としたペンを届けようと追いかけた結果、ひとけのない森林公園の一角で、彼の秘密の逢瀬(おうせ)を見てしまった。  私、ミスティ・オルランド伯爵令嬢は、冷たくなる指先を両手で握り締めて、じっと二人の様子を見つめることしかできなかった。    エリックは、私が見ていることにも気づかず、本命の女性――私の親友であるマリーの額に口づけを落とす。マリーははにかみつつ、大げさな(うれ)い顔で俯いた。 「エリック様、私不安なんです。あなたの心が、いつかミスティに向かうんじゃないかって」 「そんなこと、あるわけがないだろう。僕にとってミスティは、うちの商会に貴族の(はく)をつけるためのお飾りだ。愛なんかない、むしろ僕は気の強いミスティが苦手なんだよ。僕が女性として愛しているのはマリー、君だけだ」  私は、箔をつけるためのお飾り……。  エリックの言葉に、傷つくよりもあきれの気持ちがわきあがってきた。  私とエリックは家同士が決めた許嫁(いいなずけ)だ。挙式を来月に控えている。  貴族との繋がりや人脈、お墨付きが欲しいエリックの実家、スイート商会。  対して、商会の財力や将来性に期待している我がオルランド伯爵家。  平民と貴族、一見不釣り合いな結婚に思えるが、今の時代、そう珍しいことでもない。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!