目が覚めれば

1/3
219人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ

目が覚めれば

「とりあえず付き合おうぜ」 寝返りを打ったところで、すごい近いところから誰かの声がする。 声は聞こえてきたけど、私の体全体が覚醒を拒否しているからか、目を開けて確かめることが出来ない。ひたすら瞼が重い。 まだ起きたくない。眠らせて。 「聞いてる?」 返事をしなきゃいけない・・・・?聞こえないふりをしてもいい? 「もしもーし?」 ほっといて。もう少し眠らせて。 それとも・・・・どうしても答えなきゃいけないパターンだろうか。 「生きてますかぁ?」 うるさい・・・・正直・・・・あぁ、もう面倒くさい。 「生きてる」 目を閉じたまま、やっとの思いで口を動かした。 「さっき言ってたの、聞いてた?」 なんのこと?何言われてた?生きてるかって聞かれたから、ちゃんと答えたじゃん。 「付き合おうって言ったこと」 この声、聞き覚えはある。でも聞きたくない声。 「誰が誰と?」 やっと口を開いたところで、機嫌の悪い声しか出なかった。 「俺と紫桜(しおう)」 二日酔いのせいで、それじゃなくてもハッキリしない頭にいよいよ霞がかってくる。 確かに今、私の名前が聞こえてきた気がする。 私と誰が付き合うって・・・・? 仕方なく、ホントに仕方なく、無理やり重い瞼をやっとのことで開ける決意を固めた。 既視感のあるシルエットがぼんやり見えてくる。 私の目の前で、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出すこの男は・・・修ちゃん?あれ、なんで?さっきから、この男は一体、何を言ってたっけ? 頭の中は混乱状態だ。 「私が修ちゃんと付き合う?なんで?」 カオスだ。体全体が、考えるのを拒否している。 「理由要る?まぁ、俺が普通に付き合ってもいいと思ったから」 「だから修ちゃんと誰が?」 「聞こえなかった?俺と紫桜」 この男の顔はずっと昔から知っている。 知っているけど、どう考えても、さっきから話の文脈がおかしい。 覚醒が加速した。 「はぁ?朝っぱらから一体何なの?今日はエイプリルフールかなんかだっけ?ホント、面白くもない嘘ばっかりつかないで。また、何か、からかってるの?」 そう言いながら私は彼を睨みつけた。睨みつけたところで、ベッドに寝たままの姿勢の私は見下ろされているわけだから、どうしたところで立場が弱い気がするけど。 この男、江上修一郎は、私の理解をはるかに超えることをさっきから言い放っている。 このまま寝てるわけにいかないじゃないか。 それともこれは夢の続きか何かなの?それも悪夢。絶対、現実じゃないよね? 意を決して、体を起こせば、この幻影と幻聴からも解放されるだろうか。 そうだ、きっときちんと目が覚めさえすれば、この悪夢も終わるに違いない。 そう思って、ベッドからどうにか起き上がってみたものの、頭がクラクラして、これ以上は動けそうにもない。そして、目の前の男は消えてくれない。 どうやら悪夢は続いているらしい。 そして、この男は今、私が起き上がったベッドの縁に腰掛けている。 マズイ、思ったより距離が近づいてしまった。 「昨日、一緒に寝たことだし・・・」 手が私の頬に触れた。私は反射的に後ずさる。後ずさったところで、ベッドと壁に挟まれるだけだけど。 それに、さっきから見ないフリをしていたけど・・・・ベッドには私じゃない誰かも寝ていた形跡が見て取れた。 一体、何が起きているというの?
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!