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目が覚めれば
「とりあえず付き合おうぜ」
寝返りを打ったところで、すごい近いところから誰かの声がする。
声は聞こえてきたけど、私の体全体が覚醒を拒否しているからか、目を開けて確かめることが出来ない。ひたすら瞼が重い。
まだ起きたくない。眠らせて。
「聞いてる?」
返事をしなきゃいけない・・・・?聞こえないふりをしてもいい?
「もしもーし?」
ほっといて。もう少し眠らせて。
それとも・・・・どうしても答えなきゃいけないパターンだろうか。
「生きてますかぁ?」
うるさい・・・・正直・・・・あぁ、もう面倒くさい。
「生きてる」
目を閉じたまま、やっとの思いで口を動かした。
「さっき言ってたの、聞いてた?」
なんのこと?何言われてた?生きてるかって聞かれたから、ちゃんと答えたじゃん。
「付き合おうって言ったこと」
この声、聞き覚えはある。でも聞きたくない声。
「誰が誰と?」
やっと口を開いたところで、機嫌の悪い声しか出なかった。
「俺と紫桜」
二日酔いのせいで、それじゃなくてもハッキリしない頭にいよいよ霞がかってくる。
確かに今、私の名前が聞こえてきた気がする。
私と誰が付き合うって・・・・?
仕方なく、ホントに仕方なく、無理やり重い瞼をやっとのことで開ける決意を固めた。
既視感のあるシルエットがぼんやり見えてくる。
私の目の前で、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出すこの男は・・・修ちゃん?あれ、なんで?さっきから、この男は一体、何を言ってたっけ?
頭の中は混乱状態だ。
「私が修ちゃんと付き合う?なんで?」
カオスだ。体全体が、考えるのを拒否している。
「理由要る?まぁ、俺が普通に付き合ってもいいと思ったから」
「だから修ちゃんと誰が?」
「聞こえなかった?俺と紫桜」
この男の顔はずっと昔から知っている。
知っているけど、どう考えても、さっきから話の文脈がおかしい。
覚醒が加速した。
「はぁ?朝っぱらから一体何なの?今日はエイプリルフールかなんかだっけ?ホント、面白くもない嘘ばっかりつかないで。また、何か、からかってるの?」
そう言いながら私は彼を睨みつけた。睨みつけたところで、ベッドに寝たままの姿勢の私は見下ろされているわけだから、どうしたところで立場が弱い気がするけど。
この男、江上修一郎は、私の理解をはるかに超えることをさっきから言い放っている。
このまま寝てるわけにいかないじゃないか。
それともこれは夢の続きか何かなの?それも悪夢。絶対、現実じゃないよね?
意を決して、体を起こせば、この幻影と幻聴からも解放されるだろうか。
そうだ、きっときちんと目が覚めさえすれば、この悪夢も終わるに違いない。
そう思って、ベッドからどうにか起き上がってみたものの、頭がクラクラして、これ以上は動けそうにもない。そして、目の前の男は消えてくれない。
どうやら悪夢は続いているらしい。
そして、この男は今、私が起き上がったベッドの縁に腰掛けている。
マズイ、思ったより距離が近づいてしまった。
「昨日、一緒に寝たことだし・・・」
手が私の頬に触れた。私は反射的に後ずさる。後ずさったところで、ベッドと壁に挟まれるだけだけど。
それに、さっきから見ないフリをしていたけど・・・・ベッドには私じゃない誰かも寝ていた形跡が見て取れた。
一体、何が起きているというの?
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