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出会いの嘘
高1の秋ごろだろうか。
11月8日
僕は夜、彼女が川沿いのベンチに座って星を眺めているのを見つけた。
チャンスだと思った。窓から木に移ってバレずにうまいこと病院から抜け出した。 入院服のままだったけどパジャマということでごまかせると思った。
「隣、いいですか?」
彼女は近くで見るとより可愛かった。
僕はできるだけ良い人を演じるためずっと微笑んでいた。
「こんばんは」
怖がられてませんように。
「星、綺麗ですね。僕もあんな風に輝いてみたい。」
これは本心だ。なんともキザなセリフだな、と心のなかで苦笑いしていた。
「...私にはもうあなたは十分に輝けているように見えますよ。」
彼女は優しかった。ますます好きになった。
「ははっ。ありがとうございます。でも、僕は君の方がこれからもっと輝けるように思えますよ。だって、僕はこれから光を失っていくだけですから」
これも本心だ。彼女は輝ける。でも僕はもう、死ぬだけだ。
「どういうことですか?光を失うって」
一瞬本当のことを言ってしまおうかと思った。でも思いとどまった。
「あ、いや、なんでもないんです。あぁ、そろそろ戻らないと。僕抜け出して来たんですよね。君も早く家に帰らないと叱られちゃいますよ。」
病室に看護師が入ってくるのが見えて慌ててそう言った。
「そんな、もう帰るんですか?」
帰りたくないけど、しょうがないしね。
「もともとすぐ帰る予定だったので。」
あ〜あ、僕ってば嘘だらけ。
「では」
冷たく言い放って急いで戻ろうとした。
「あ、あの!」
え、まだなにか?そんなに僕のこと好きになったのかな。
「ん?なに?」
「あ、あの、えーっと、あ、名前!名前教えて下さい!」
「ああ、名前ね。ユウです。ユウ。君は?」
凛でしょ。山内凛。知ってる。
「わ、私は凛です。山内凛。」
ほら。
「凛ちゃんか。素敵な名前だね。また明日もきっと来るよ。じゃあね。凛ちゃん」
すこしあざとく、ちゃん付けにした。
やっぱり好きだな。
そう思いながら病院に戻り、「トイレに行っていた」と看護師に嘘をついた。
僕は嘘つきだ。
でも彼女を幸せにできたならいいかな。
ほら、またあのベンチで彼女はすぐに僕の星を見つけて小さく手を振ってくれる。またあのベンチで―――。
FIN
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