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 目の前が真っ暗になる瞬間、それは眼を瞑らなくても訪れてしまう。    僕にとって一番大事だった友達が、突然自死したと母が涙ながらに僕に告げた。 「裕二くん、川に飛び込んだんだって。しばらくしてから地元の人が見つけてくれたらしいんだけど、もう……」  いつもなら洗練されて美しく映る月も、今日はどこか霞んで浮かんでいる。電話が切れた後で、仕事帰りの僕は歩くことを止め、近くにあったガードレールに腰をかけ、世界の不条理さを憂いた。ロマンチックに散らばっているはずの星は、輝きを失って滲んだ鉄粉と化している。  昨日まで、裕二は僕と連絡を取っていたのに。 「俺、最近仕事が辛いんだよねえ」 「そうなの?」  裕二は「そうそう。上司が嫌な奴なんだよ」と苦笑いしながら電話越しに言っていた。 「俺に仕事押し付けてくるし、突然暴言を吐いてくるし、挙げ句の果てに理不尽に怒ってくるんだぜ。あーあ、仕事嫌だなあ」  ただそれらの言葉は、ここ数ヶ月で裕二が言う常套句になっていた。だから僕はいつも通り「大丈夫?」と心配しつつ、実際はそれほど気にしていなかった。 「まあ、酒飲んじゃえばへっちゃらだけどさ」  裕二も裕二で、愚痴を言いつつも、最悪の事態を回避する方法を知っていた。どんなに辛いことがあっても、僕らは連絡すれば最終的に元気になって終わる。元気に明日を迎えることができる。  僕はそう、信じてきた。 「どうしてだよ、裕二」  やりきれない感情と、溢れ出る後悔が渦を巻いて、僕を息苦しくさせる。こんな仕打ち、どうして訪れてしまうのだろうか。僕は神も仏にも無関心だったが、このときばかりは超越した存在さえも恨むしかなかった。
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