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ピストルの号砲とともに選手がスタートブロックを蹴る。
なんと最初に飛び出したのは杉内だった。低姿勢のまま一気に加速していく。三浦が二番手で続く。30mを過ぎても杉内はまだリードし続けていた。
まさか。本当にあれは中学時代は市大会も突破できなかった杉内なんだろうか?
やがて50mを越える頃に、三浦が来た。大きな身体を活かしたストライドでグンと伸びてきた。杉内も粘ってはいるが差は少しずつ縮まっていく。
逃げ切れば杉内が優勝だ。そのまま逃げ切れ。
80m付近までは競り合った杉内だったが、そこで交わされてしまった。誰より速くゴールラインを越えた選手は、会場にいる大方が予想していたとおり三浦だった。
県記録まで僅かという好タイムが記録され、会場は拍手に包まれた。
三浦が両手を両ひざに当てて息切れをしている杉内に何かを話しかけていた。もちろん、スタンドからは声が聞こえなかったが、杉内は何やら笑顔を浮かべていた。
野獣の目ではなくなった二人は穏やかな表情で握手を交わしていた。
僕は予選に続きスタンドで立ち尽くしたまま、大声でも出したい衝動に駆られていた。
どうして、どうして僕はスタンドなんかにいるのだろう。
何度もあの場所に戻るチャンスはあったのに。杉内が何度も誘ってくれたのに。僕はあの場所に戻らなかった。
それはまた負けてしまうことが怖かったからだ。自分が全力を尽くしても負けてしまうことが怖かったからだ。杉内は僕と同じく三浦に気圧されることはあったが、そこに立ち向かい、今二人は握手を交わしている。
どうして、どうして僕はあのトラックに立っていないのだろう。
高校3年生の僕は、もう出場できる大会が存在しない。もう戦う場が存在しないことに、とんでもない長さの時間を無駄にしたことに気がついた。
あの二人はまだインターハイまでの夏が続くのに、僕の夏は始まりもせずに終わってしまった。
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