序章

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序章

 世界には数多くの『ダンジョン』が存在する。ダンジョンとは多種多様なモンスターの棲み処であり、金銀財宝が眠る夢のような場所だ。  ゆえにヒトはまだ見ぬ宝を求め、ダンジョンへ足を踏み入れる。  モンスターの素材やダンジョン内にある薬草を集めて、コツコツと堅実に生計を立てる者。宝物殿や珍しいモンスターを探して一攫千金を夢見る者。自らの力量、限界を試したがる命知らず――などなど。  ヒトは実に多くの目的をもってダンジョン内を探索する。彼らは総じて『冒険者』と呼ばれている。  冒険者とはその名の通り、世界中のダンジョンを冒険する者の総称だ。大陸中のダンジョンを巡り宝を探して、モンスターを倒す事で経験値を得る。自らの肉体を鍛え精神を鍛え、技を鍛え上げるのだ。  そうして心技体を鍛え上げた上級冒険者は、更なる高難易度ダンジョンを目指して世界中を旅する。  難度の高いダンジョンに潜れば潜るほど、希少な宝や強力な武具も見つかりやすい。生息するモンスターのレベルも格段に上がるので、連動して経験値も増える。  しかし冒険者とはリスクの高い職業だ。わざわざ命の危険を伴う仕事をする必要はない。街の商人だって教育者だって医者だって、十分に生計を立てられるだろう。  それでもヒトは、より多くのダンジョンを踏破する冒険者になりたがる。冒険者とは正に英雄――ヒトの憧れなのだから当然だ。  ところで、ダンジョンとは全く不思議な場所である。  例えば洞窟型のダンジョン。ぽっかりと大きな口を開けた横穴に入れば、中は複数のエリアで成り立っている。入口エリアから始まって、モンスターが活発に動く危険なエリア。比較的安全な薬草採取エリアや採掘エリア。何故かモンスターが一体も湧かない休息エリアもある。  そして、ダンジョンの主――ボスが棲み処とする危険なエリアの先には、宝物殿エリアが続くのがお決まりだ。  この宝物殿まで到達する事をダンジョン踏破と呼ぶ。  もちろん踏破するためには打倒ボスを目指す必要があり、それにはまず自分自身のレベル上げをするのが常道だ。ボスに勝たなければ宝物殿まで辿りつけないし、踏破するなど夢のまた夢なのだから。  踏破を繰り返す度に名声が上がり、いずれ腕の立つ冒険者になれば各街の『ギルド』でパーティを組む事も容易になる。より強いパーティを結成すれば、単身では踏破が困難なダンジョンにだって挑戦できるようになるだろう。  では、肝心のレベル上げをどうするのかと言えば――とにかくダンジョン内のモンスターを狩るしかない。スライム、ゴブリン、コボルト、オーク、なんでもいいから狩りまくるのだ。  モンスターにもそれぞれレベルがある。相手が強敵であればあるほど入手できる経験値も増える。しかし、何も無理して強敵に挑む必要はない。命あっての物種だ。  例え相手がレベル一の最弱スライムだとしても全く問題ないのだ。非効率ではあるが、それなりの数を狩ればいつかはレベルが上がるのだから。  仮にダンジョン内のスライムを全て狩り尽くしてしまっても心配はいらない。なぜならモンスターは()()()()する。  復活させる方法は至極単純だ。モンスターの巣エリアを叩いた後に隣のエリアへ移動して、また巣エリアに戻る。ただそれだけ。  すると先ほど狩ったモンスターの死骸はキレイさっぱり消滅して、新たなモンスターが溢れる空間に早変わりする。飛び散った体液も抜いたはずの薬草も元通り。  エリア移動がそれなりの回数必要にはなるが、一度開けたはずの宝箱だって復活する。モンスターの復活と違い、宝箱の出現に関しては運任せの部分があるのだ。  そうして()()()沸き出る資源とモンスターのお陰で、狩場や財宝を巡る冒険者同士の争いは起こりにくい。  つまり冒険者は、好きなだけレベル上げができるという訳だ。しかも経験値だけでなくモンスターの素材だって採り放題。気力と体力が尽きるまで存分に狩りを楽しめる。  なんとも不思議な空間だが『ダンジョン』とは古来そういうものだ。ヒトからすれば、こんなものいつから存在しているのかすら分からない。あまりに原理が謎のため神の遺物とも呼ばれている。  ダンジョンとはモンスターの棲み処。気付いた時にはそこらじゅうにあったものだ。貴重な素材や宝物殿が存在して、冒険者にとっては生活の基盤となる稼ぎの場。  ただエリアを移動するだけで無限に沸くモンスター。少し時間を置いただけで復活する謎の宝箱。なぜ無限に沸くのか。なぜ宝箱が復活するか。そんなもの知った事ではない。なぜならダンジョンとはそういうものだから。  エリアを移動しただけでモンスターの死体が綺麗さっぱり消滅するのも、戦闘で崩れた壁が修復されるのも当然の事だ。冒険者の間では「見えない妖精さんの謎の力で修復」「小さいおっさんが頑張って修復している」なんて語り草になっている。  調べたところで原理は謎なのだ。ヒトがそう思いたくなるのも至極当然の事であった。
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