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「双子だそうだな」
そう言われて、トリスは僅かに唇を尖らせた。
しかし、次に続いた嘆くような「全く似ていないから、ひとつも気付かなかったじゃないか――」というシャルの声を聴いた途端パッと頬を朱に染めて頷く。
「そうです、双子です。姿形そっくり、趣味嗜好もそっくり、いつも二人でやっと一人前扱いの双子」
「それは僕に対する嫌味なのか? 姿形そっくりなんて言われても、僕の目と脳からすればエルフ族は全員「双子」だ」
「……これだから、エド先輩について行きたくなっちゃうんですよね」
「意味が分からない」
トリスは照れくさそうに笑いながら、長いツインテールの毛先を指でほぐした。そうして髪を遊ばせながら、伏目がちになって告白する。
「――いいですか、先輩。私とアザレオルルは「双子」扱いにも「劣等種」扱いにも辟易しているんです。でも、エド先輩は昔から何も変わらない……双子だろうが双子じゃなかろうが、男女老若の見分けすらついていません。皆平等です」
「……それは盛大なディスリスペクトか? 人の障害を揶揄して楽しいか」
シャルが特別老若男女の見分けがついていないのではなく、元々エルフ族がそういう種族なのだと主張したい。
数万年と生きる長命種なだけあって、エルフの老化はかなり遅い。シャルの敬愛する四万飛んで三百五十六歳のじぃじだって、見た目だけなら青年エルフとなんら変わらないのだ。
その上、金髪碧眼尖り耳で個性の少ない美麗な顔立ち。男女ともに似たような体形をしていることもあって見分けるのが難しい。
エルフとは古来魔法の弓を扱って魔族と戦う種族だった。その結果、大胸筋が鍛えられて胸が育つ――どころか、弓を引くのに邪魔になるとして、時代と共に削げ落ちた。生きるのに不要なものは淘汰される定めなのだ。エルフ族の「進化」である。
お陰で男も女も胸が真っ平。いや、むしろ男エルフの大胸筋の方がよほど豊満かも知れない。
ヒトから見たエルフなど、どれもこれも同じ顔に見えるのではないだろうか。見分けがつかないのは決してシャルだけではないはずだ。
――いや、まあ同じエルフ族でこんな症状に苦しんでいる者は滅多に居ないのだが。
トリスは、やや遠い目をするシャルに構わず続けた。
「しかも、いつだって私たちみたいな混ざりものを「エルフ族」と一緒くたにしてしまう。エルフにもヒトにも魔族にも、どこにも寄る辺がない者からすればエド先輩は劇薬のようなものです。それで好かれる自覚がないと言うんですから、もう堪ったものではありませんよ……先輩もしかして「やれやれ、僕は目立たず静かに過ごしたいだけなんだがな」って言いながら、世界改革しちゃうタイプのエルフですか?」
彼女の告白を真剣に聞いていたシャルは、しっかりと熟考したのち口を開く。
「トリス、本当は僕のことが嫌いなんだろ」
「この世の誰よりも好きですし、尊敬していますよ! 本当に分からず屋ですね!」
己のツインテールを両手で握りしめながら、ムッとした顔で引っ張るトリス。そんな彼女を見て、シャルはふと思い立ったように指差した。
「ところで、前々から思っていたんだが――仕事の邪魔にならないのか。前屈みになった時に落ちてくるだろう」
「えっ……も、もしかして先輩ツインテお好きじゃないんですか……!?」
「なぜ問答無用でツインテ信者として認定されているのか分からないが、別に好きでも嫌いでもない」
トリスは驚愕に目を見開いて、口元を震わせながら「でも」と漏らした。
「これくらい特徴づけしないと、エド先輩私を認識してくださらないし!」
「そういう障害なんだ」
「そ、それに初出社した時に褒めて下さいましたよね!? 覚えやすくて良いって! そもそも、ダンジョン時間で言えばたったの半年ですけど、世界時間で言えば九十年経ってるんですよ!? 今になって邪魔だなんて――九十年間ずっと私の髪のこと邪魔だなあって思っていらしたんですか!?」
とんでもない勢いで詰め寄ってくるトリスに、シャルは数歩後ずさった。
――本音を言えば、出勤したばかりの新人の姿を褒めて手っ取り早く距離を縮めろというのはじぃじの教えである。「今日天気イイね」ぐらいのものであり、とにかく会話するキッカケさえ掴めれば褒める内容はなんだって良いのだ。
特に新人が女性だった場合は、頭ごなしに「その恰好は勤務に向いていない」なんて否定してはいけないらしい。俗にいうセクハラ、モラハラである。
じぃじ曰く「その恰好は勤務に向いていない」なんて言おうものなら「このエロエルフ、アタシの服を脱がそうって魂胆なのね!?」と誤解されかねないらしい。
髪型についても同様で、下手に言及しようものなら「コイツアタシに気があるのね。職権乱用して部下を思い通りにしたがるなんて、最低!」となりかねない。
曲解もいいところだが、実際にそういった事例があるのだ。
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