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            3 「やっぱり若菜ちゃん、休みだね」 「うん。顔色悪かったものね。本当に驚いたよね、あやっぺ」  「うん」  「私も途中で若菜ちゃんの様子を見て驚いたよ。一緒に学校に行こうかって、聞いたら1人で大丈夫なんて言うから、余計に心配したよ」  「だよね。1人で戻って来たときは驚いたよ。私とあやっぺが外でお昼なんて食べていなかったら、どうなっていた事か」  「ほんと。若菜も無理して1人で大丈夫なんて意地張らなければいいのに」  「まぁ、そこが若菜ちゃんらしいよ」  「そう?」  「「そうそう」」  今は休み時間。昨日、具合が悪かった若菜は今日お休みだ。今は、綾と春奈、そして雫の3人で話をしていた。  春奈と雫は、若菜とは付き合いが長いので若菜の性格をよく知っている。けど、綾はそうでもないので、2人よりは若菜とは付き合いが短いのだ。  「ねぇ、しーちゃん。昨日はどうだった?」  春奈が昨日の天文部の発表会について、雫に聞いてきた。  「えっ、……先輩の論文がすごかったよ」   「確か、天文部の部長って藤村竜也ふじむらりゅうや先輩だよね?」  「そ、そうだね」  「学校じゃあ、女子に人気があるっていう先輩でしょ。カッコいいよね!」  「そうなの?」  「あやっぺは興味ないの?」  「全然」  「もったいない。あやっぺだってすごく美人さんなのに恋愛には、ほぼ遠いなぁ~」  「悪ぅーございました」  「でも藤村先輩、カッコいいよね~。しーちゃんもそう思うでしょ」  「う、うん」  元気がない雫の声に綾と春奈が雫の事を見た。どうしたのかと。  「どうしたの、雫。なんか元気がないみたいだけど?」  「そ、そんな事はないよ。ただ……私もなんだか風邪気味みたいなの」  「しーちゃんも。無理しないでね」  「ありがとう、春奈ちゃん」  2人の会話を聞いていた綾は、何気に春奈に質問してみた。  「ところで春奈。私や雫には、ニックネームで呼ぶのにどうして若菜は普通なの?」  「あっ、私も言われてみれば不思議に思ったの。若菜ちゃんだけニックネームで呼ばれていないよね? 私と綾ちゃんは普通にニックネームで呼んでいるのに」  あれは~といいながら春奈が2人に説明を始めた。  「しーちゃんとあやっぺ、絶対に若菜本人の目の前で言わないでよ! 若菜は普通に呼ばないと怒るのよ。ニックネーム禁止って、言われたの。それで」  「始めて知った……」  「私も……ちなみに春奈ちゃん。若菜ちゃんの事、なんて呼んでみようと思ったの?」  「あっ、それは私も知りたい!」  綾も興味があって春奈に聞いてみる。春奈は、記憶をたどるかのように少し考えてから答えた。  「えーと、若ちゃん、わーちゃんとか、かな」  「案外に普通だよね」  「うん。そうだよ」  「確かに普通だね。それでも若菜ちゃんは嫌だったのね」  「そうかも。でも2人は、意外にも否定しなかったし、まぁいいのかなって」  「まぁ、慣れちゃったしね。そうでしょ、雫」  「うん」  この時、綾達は普通に会話をしていた。  綾には、雫が何か悩み事でもあるのかなと一瞬、思える仕草しぐさが気になったけど、本人は風邪気味って言っていたので無理に聞くのもと思いやめた。何かあれば雫から話してくれると信じて。  日曜日の朝。綾は少し遅めに起きた。学校はお休みだし、ゆっくりと起きてみた。  「おはよう。お父さん、お母さん」  「「おはよう、綾」」  「今日は俺の方が早いな、綾」  「えっ! あっ、渉がもう起きている……おはよう」  「おはよう、綾」  「今日は日曜日だよ。学校休みなのになんで、そんなに早いの?」  「別にいいじゃん」  「あっ、もしかしてデート?」  「違う。茂達と約束があるの」  いつも綾より遅く起きてくる渉が今日は、綾より早く起きていた。  自分より早く起きていた渉に不思議に思った綾は、デートかなと期待したが違ったみたいだ。  「ふ~ん、ほんとかな~?」  「ほんとだって」  「2人共、少し静かにしてくれ。ニュースが聞こえん」  「「ごめんなさい」」  滝森家の日課は毎日、朝のニュースを必ず見る事から始まる。探偵事務所をやっている父にとっては大切な情報網と言える。  それを見習って2人も朝のニュースは、必ず見るようにしている。いつか、2人は父の手助けになれたらいいと思っている。  父、蓮もそんな2人の思いに気付いているのか、今は簡単な依頼を2人にさせている。  ーー次のニュースです。昨夜7時半頃、高校生の死体が発見されました。発見された場所は自宅で桜月町さくらつきちょうに住む青森雫さん(16才)。死因は大要の睡眠薬という事です。警察は自殺とみて、自殺した原因を捜査するという事です。  次のニュースーー  「えっ、う・そ、だよね。雫が自殺って……」  綾は自然とテレビを見ていたが、今、流れたニュースに膝の力が抜け、床に座り込んでしまった。  「「綾!」」  「綾の友達かい?」  「……」  「そうだよ。クラスメイトで友達だよ。なぁ、綾」  「……うん」  「綾」  母親と渉は驚き、蓮は冷静に綾に問かける。しかし、綾はショックのあまりか、言葉がでなかった。変わりに渉が答えた。  母親が綾を励ますように綾の両肩に手を置いた。綾はそれに気づき、母親を見た。  「お母さん……」  綾は座り込んだまま、母親の服にしがみついた。  「綾、大丈夫!」  「綾、部屋に行こう」  「でも、渉……約束が」  渉が綾に近づいて部屋に行く事を進めた。しかし、綾は渉には約束が、と言ったが渉は、首を左右に軽く振りもう一度、綾を見た。  「俺の方は大丈夫。それより今は綾の方が心配だ。綾、自宅じゃあ分からないけど、顔色悪いよ。部屋にいって休もう」  「綾、渉と一緒に部屋に行きなさい。少し休んだ方がいい」  「はい」  「行こう、姉さん」  綾の顔色はすごく悪かった。家族に休むよう言われ、渉は綾の部屋がある2階へと向かった。  2人が部屋に行ったのを見た両親はテレビを見ながら会話をしていた。  「かわいそうに。まだ、若いのに。しかも綾と渉と同じ歳で」  「あぁ。何が原因で自殺という道にいってしまったのだろうか。まだ、若いのに」  「そうですね」  「綾、大丈夫か?」  「うん……」  2人は綾の部屋にいた。2人は、ベッドのところに座っていて渉がずっと綾の隣にいた。  「渉、もう大丈夫だから出かけても平気よ」  「いいや、やめておく。今は綾の方が心配だから……それにさっきメールしておいたから平気」  「そう……。あのね、雫と最後に話した時に少し元気がなかったの」  綾はポツリと呟いた。渉は黙って綾の話を聞く。  「あのね、雫がね、元気なかったの。本人は風邪気味って言っていたけど、私には……何か悩んでいるように一瞬、そう見えたの。無理に聞くのも、どうかって思ったけど、こ、こんな事になるなら……無理でも、無理でも……話しかけて、雫から悩みを聞いて、あげれば良かったよ!」  綾は、途中から涙声になりながら、あの時、こうすればと後悔をしていた。  「綾……自分を責めるな。無理に聞かないで相談してくれるのを待っていた。そうだろう?」  「うん」  「じゃあ、それは綾の優しさだと俺は思う」  「渉……」  「警察が原因を見つけるってニュースで言っているんだ、だから信じよう」  「うん。ありがとう、渉」  その後。月曜日に学校に行くと朝、体育館で全校生徒の朝礼があった。そこで雫が亡くなった事を全校生徒に伝えられ、黙祷もくとうして、何か知っている生徒は、それぞれの担任へ伝えるように言われ、月曜日の学校はそれで終わった。              4 あの事件から5日も過ぎた。警察の捜査も全然、手がかりもつかんで、いないようだ。学校でも警察の捜査を積極的に協力しているようだが、状況は何も変わらない。  「あやっぺ、一緒に帰ろう」  「春奈。いいよ」  2人は一緒に帰る事になり学校を出た。明日まで部活活動は、禁止されているのでバスケ部の春奈と一緒に帰るのは、久しぶりかもしれない。  逆に部活に入っていない綾は学校が終われば、すぐに帰宅する事ができる。  2人は正門を少し出た所で歩くのをやめて立ち話を始めた。  「あれから5日も過ぎたね……」  「うん。本当にしーちゃんは、どうしてあんな事を……」  「いつも通りの明るさだったのに。少し風邪気味って言っていたくらいなのにどうして……どうしてなの、雫。悩み事とかあったら話してくれればいいのに……あんな……」  2人は雫の事を話していた。  「春奈は辛いよね。私は中2で初めて会ったけど、春奈は小学校からの友達でしょ?」  「うん。でも……もっと辛いのは若菜の方だと思うよ」  「若菜?」  「そう。若菜はしーちゃんとは、小さい頃からの友達だって前に聞いた事があるの」  「じゃあ、一番ショックだよね、若菜」  「うん」  若菜は風邪が治っていないのと雫の死でショックを受けて、今は学校を休んでいる。  「じゃあ、また明日ね、あやっぺ」  「うん、また明日」  綾が自宅に向かって歩いていた。あとで若菜にメールで元気だしてと伝えようかと考えたが、かえって逆効果になるかもと思いながら歩いていた。いつの間にか家の近くまで帰っていた。  すると家のところに1人、誰かが立っていた。  その人は、この場所で本当にあっているのか、それとも違うのかと何回も確認しては、中に入ろうか、どうしょうと迷っているかのように見えた。  綾は走って家の前にいる人を確認した。そこには、知っている人がいた。  自分と同じ制服を着ている女の子がいた。綾とは違うクラスだが、顔を何回か、見た事があるので確認する意味で綾は名前を呼んでみた。  「……星宮サユリさんですよね?」  「えっ、あっ、滝森綾さん」  やっぱり綾が知っている人物だった。  「星宮さんだよね。どうしたの?」  「実は、ここの探偵事務所に入ろうかと思っていて……」  「うちに?」  「うちって……あっ、ここって滝森さんの家なの?」  星宮と呼ばれた子は、少し考えてから『あぁ』と確認する意味で綾に質問をした。  「綾でいいよ。そう、ここはお父さんの探偵事務所なの」  「綾さんのお父さんが?」  「そうだよ。あっ、お友達とかには言わないでね」  「あっ、はい」  「綾、何やっているんだ、家の前で?」  「渉!」  「滝森君……そっか、2人は双子だから」  「そう」  「星宮がなんでここに?」  綾と星宮が話していると学校から渉が家に帰って来たみたいだ。  綾が家に入らないで外で何かしていたから、渉は綾に声をかけた。  「ここに用があるって」  「事務所に?」  「そう」  滝森探偵事務所のところに立っていた人物は、渉のクラスメイトの星宮サユリだった。色白な肌で髪はストレート。長さは綾と同じくらい。頭が良く、学年ではいつもトップクラスに入るほどの成績を持っている。それは、綾と渉も同じで違うクラスの綾でも星宮の事は知っていた。  探偵事務所は、朝倉町にあるが隣町でも知っている人はたくさんいる。探偵事務所が少しずつ、いろんな人から人へと噂、いや、何でも解決できる事務所と知られて、いろんな人が来るようになった。 茶色の建物で『滝森探偵事務所』と書いてある看板がある。そして探偵は1人しかいない為、多くの依頼をこなす事は難しいので簡単なものは、綾と渉の双子が手伝っているのだ。  2人の家が探偵事務所なのは、誰にも言っていないし、秘密にしているのだ。  「「ただいま」」  「お帰り、2人共」  「あっ!」  「どーも、2人共。大きくなって」  「「簾堂すどうさん、こんにちは」」  「あいかわず、息ピッタリだな」  家に帰ってみるとそこにはスーツ姿の男性がいた。  男性の名は簾堂 秋於(あきお)、刑事だ。右の頬に小さいキズがある。簾堂は双子の父、蓮とは親友同士である。幼い頃からお互いに夢を叶えようと共に努力し、夢を叶えた2人だ。  割りとよく、あるいは、たまに事務所に来るので綾と渉は簾堂の事は、父の友人で刑事だという事は幼い時から知っているのだ。  その為、簾堂も小さい頃の綾と渉の事も知っている。  「お父さん、お話し中にすみません。お客さんです」  「お客さん?」  「入って、星宮さん」  綾は星宮を事務所の中に入れた。少し緊張しているのか、なかなか中に入って来なかった。綾は星宮の手をとり、中に入れてあげた。  「こ、こんにちは。星宮サユリと言います。あの、依頼したい事が……」  「じゃあ、俺はまたあとで来るとしますか」  「あ、あの……私は後あとでもいいので」  「しかしなぁ……」  星宮は先に来ていた簾堂を先にと言うばかりか、控えめな声で話した。  2人のやり取りを見たいた双子の父、蓮が星宮に提案をしてきた。  「うーん、君の、星宮さんの依頼は何かな? ここにいる人に聞かれたくない内容かな、それとも平気かな。どちらかな?」  「あっ、えーと」  「あっ、簾堂さんは刑事さんだ」  はぁ~と綾は小さくため息をして渉の前に出て、人差し指を出して渉に向かって『ダメでしょ』と言いながら渉を見た。  「渉……簡単に個人情報をバラさない!」  「あっ、やべぇー」  「平気さ。その子は双子と同じ学校に通っているのだろう」  「はい、そうです。すみません、簾堂さん」  綾は渉の代かわりに簾堂に謝った。簾堂は平気さと軽く笑っていた。    「で、どうかな?」  「大丈夫です。ここにいる皆さんも知っている事だと思いますので」  「知っている事?」  星宮は決意したかのように一言交わした。  「はい。自殺したと言われている青森雫さんの事です」  「「「 ! 」」」  「……な、なんという偶然だな」  「えっ?」  「ここにいる刑事もその事で、ここに来ていたところだよ」  「「「 ! 」」」  星宮がここに来た理由は自殺した青森雫の事だった。  そして先に来ていた簾堂も全く同じ事だったらしい。その場にいる全員が驚いた。  出入口から少し離れた場所で星宮の話を聞いていち早く、双子の父、蓮が行動を起こした。  「とにかく話を聞こう。こちらへ」  「はい……」  「綾と渉も一緒に聞きなさい」  「いいの、お父さん?」  難しい依頼の時は綾と渉は、席を外しているが今日の依頼は父向きの仕事なので、自分達が一緒にいてもいいのか、一応、綾の方で父に聞いてみた。  「その方が星宮さんも気持ちが楽になるだろう。大人2人と話すよりも」  「一緒に聞いてもいいかな、星宮さん」  「お願いします」  綾は一応、星宮さんにも同行してもいいのか、許可をもらった。  綾と渉も一緒に話を聞く事になった。3人はソファーに座った。  「じゃあ、話してもらえるかな?」  「はい」  星宮は鞄の中から一通の手紙を出して蓮に渡した。蓮は手紙を受け取り、差出人を確認した。  「開けてもいいかな?」  「はい、どうぞ」  蓮が手紙の中を確認した。そこには、一言だけ、文字が書いてあった。     ーーー ごめんね ーーー  という言葉だけが。蓮は星宮に視線を戻した。  「これは?」  「私にも分からないです。手紙を貰って何日か、考えてみたのですけど……雫さんは何を伝えたかったのか。私には……」  「お父さん、私も見ていい?」  「いいかね?」  「はい」  綾は手紙を受け取り、そして内容を見て、渉や簾堂にも渡していく。  「彼女は、君に何を伝えようとしていたのだろう」  蓮と簾堂の2人が星宮に質問していく。  「ちょっと嫌な事を聞くかもしれないが彼女、雫さんに変わった様子は,、なかったかい。何でもいいから」  少し考えてから星宮も答えた。  「いいえ……なかったと思います。雫さんとは、部活しか会わないので。私が気付いていなかった、だけかもしれませんが」  「そうか」  大人2人と星宮の会話を聞きながら綾は手紙を見ていた。いや、考えていた。  何かないのかなと思いながら。ふっと視線が手紙の切手にいった時に綾は『あっ!』と自然と声を出していた。  綾の声にその場の4人が綾を見た。  「……この手紙、雫が亡くなる3日前に書いた物だよ」  「本当かい、綾ちゃん」  「はい。郵便切手のところの消印が」  「本当だ……」  綾が見つけた事をその場の4人に話をして、大人2人が確認してみると綾が言った事は本当のようだ。  綾の隣に座っていた渉が綾の肩に手を置いた。綾は渉を見た。  「綾、あの事を話してみたら?」  「……そうね」  「綾?」  綾は一度、父を見てから話し始めた。  「私、雫とは同じクラスなの。雫が自殺してしまう前に友達と話し込んでいたの。その時、雫はなんだか……元気がないように見えた。雫本人は風邪気味って言っていたの。けど、私には一瞬、雫が何か悩み事でもあるかのように見えた。無理に聞くのはどうかと思っていたけど……」  「それなら私も……」  「星宮さんも!」  「はい。変わった様子ではなかったので、たいして気にしていなかったのですが、綾さんの話を聞いて思い出しました。私も同じ部活なので部活の時の雫さん、いつもと違って元気がないような、その場に居たくないような、そんなふうに見えたので私も『大丈夫』と聞いた時に綾さんと同じく『風邪気味なの』だと答えていました」  星宮も綾の話を聞いて思い出したのか、自分も感じた少しの違和感を星宮も話をした。  やはり、星宮も綾と同じく風邪気味と言われて、たいして気にして居なかったみたいだが、綾と同じ回答に双子の父、蓮が頭の中で考え事をしていた。  「仮説だけど、あの時には2人には、雫さんの様子が変だと思えたという事だね、綾、星宮さん」  「「はい」」  「もし、そうだったら少しは前に進めた……ありがとう、2人共」  「いいえ、簾堂さん」  「あの刑事さんはこの事件の担当なのですか?」  「そうだよ」  「あの……家の人はなんて言っていたんですか?」  「いつもと違う様子には見えなかったと。ただ、15日だけは風邪を引いたみたいだからと言って部屋からお昼まで出てこなかったみたいだ」  簾堂は自分しか知らない情報を警察手帳か何か、自分でメモしたものを見ながら調べた情報をその場にいる、4人に教えた。  「そのあとは?」  「お昼に母親が部屋に訪ねた時には返事がなく、寝ているのかと思いそのままに。夜はさすがにご飯を食べた方がいいと思い部屋に行き、雫さんを呼んだが返事がなく、部屋の中に入ってみたら」  「雫さんはもう亡くなっていたという事か、秋於あきお」  「そうだ」  テレビでは報道されていない情報を聞いた綾達は、複雑な思いというか、言葉が出てこなかった。始めて聞いた情報だったからだ。  綾は静かに簾堂を見て。  「じゃあ、雫は……」  「ここにいる人だけに教えよう。青森雫さんは15日のお昼頃には、もう亡くなっていたと考えてもいい。ニュースでは昨夜と伝えているが俺はそう考えている。時間帯は教えられないが」  「じゃあ、雫さんは日曜日のお昼頃に」  「そういう事になる」  「雫……どうして自殺なんて……してしまったの」  綾の悲しい声が聞こえた。  しばらく沈黙となった。それぞれが何か考え、答えを出そうとしていた。それだけ周りは静かだった。  どうして雫は、自ら自殺という道まで選んで命を落としてしまったのか、一体そこまでして追い込んでしまった訳がなんなのかといろんな思いが浮かぶ中、綾達その場の5人は、何か必死に思い出したり、考え込んでいたりした。  「あっ!」  手に封筒を持っていた綾は突然、思い付いたかのように声をあげた。  「どうした、綾?」  渉が綾に問いかけてみた。  「この日付って、私が雫に元気がないよって聞いた日だよ」  「えっ!」  星宮は驚き、綾から封筒を受け取り、切手のところに押してある消印を見た。  そこには11月13日と押してあった。  「私も同じ日に部活で」  「まさか!」  「間違いないです」  「どういう事だ、蓮?」  「雫さんはその前の日に手紙を書き、そして次の日に手紙を出したという事か」  「そうか、住所が近ければ、すぐにでも届くけるし、出した人が速達と言えば、すぐに届けるはずたし」  「郵便局は早さが自慢ですって、欲広告を出しているのを見た事があるわ」  父の考えが分かった綾と渉は、お互いにその場にいる簾堂と星宮にも分かるように説明をした。  2人の考えがあっている事に父、蓮は頷いて、今度は簾堂に質問してみた。  「そうだな。それに雫さんの家の近くに郵便局があれば、そのまま行く事ができる。近くに郵便局はあるか、秋於?」  「……確かにあるぞ、郵便局」  「本当ですか、簾堂さん」  「あぁ」  簾堂は自分で調べたメモ帳を見ながら答えていった。  「だんだん分かってきたぞ」  パズルのピースが埋うまっていくみたいに少しずつ謎が解けていく。  渉は星宮に手紙について質問をした。  「この手紙って、いつ来たんだ、星宮」  「16日です」  「つまり雫さんは15日に自殺している。そしてその2日前の13日にはもう、様子が変だった。それと13日に手紙を星宮さんに出したと考えられる。近所なら1日から2日もあれば手紙は届く」  蓮はある程度の仮説を考え、そして皆に話してみた。  「蓮の説明だと確かにその考えにたどり着いてもおかしくない」  「というと13日の前の12日と、あとの14日に何かがあったと考えていいわけだね、父さん」  「そうだな、渉。何か心当たりはないかな、星宮さん?」  星宮は少し考えてみたけど、何も思いつく事が見つからず申し訳なさそうに答えた。  「……思いつく事は……」  「そうか」  「星宮さんは天文部だよね」  「はい」  綾はふっと思った事を星宮に質問を始めた。  「雫が元気、いや、変だと思えたのって13日の金曜日だよね」  綾は携帯のカレンダーを見ながら曜日を確認した。それを踏まえて質問を続けていく。  「そうかもしれません……」  「14日の土曜日は、部活ってあったの?」  「はい、午前中だけありました」  「その時の雫は?」  星宮は少し考えてから答えた。  「元気がなかったです」  「ありがとう」  「どういう事だ、綾?」  渉が綾に質問をしてきた。綾は近くにあった紙に日付と曜日を書いて、それを見ながら自分の考えを説明した。  「渉も覚えていると思うけど……12日の木曜日の朝、私と渉は雫と会っているの。場所は学校の正門。その時の事を思い出して」  「12日の朝……あっ!」  「思い出した?」  「あぁ」  綾は一度、渉に思い出すように言って、渉が思い出した事を確認してから、さらに説明をしていく。  「12日の朝、雫は部活の先輩と一緒に天文部の論文の発表会に行った。その時に何かあ・っ・た・と私は思うの。あの時に私達が会った時には、雫はいつも通りに元気だったし。けど、次の日から」  「自殺まで追い込み、そして自殺してしまったという事かい、綾ちゃん」  「はい。多分、そうだと思います。手紙の方は13日の金曜日に出した。郵便局でもたくさんの仕事があれば、すぐに配達はできない。しかも14日、15日は、土日で郵便局はお休み。でも、配達ぐらいなら土曜日でも可能だと思います。だから星宮さんへ手紙が届いた日が16日になったと思う」  「すごい……」  星宮は綾の説明に思わず驚きの声変わりがでた。  「じゃあ、雫さんが自殺に追い込んでしまった原因は部活の中にあると考えているのか、綾?」  「多分、いや、あ・る・と思うよ、渉」  「部活にあるか……綾、渉」  「「はい」」  蓮は3人の会話、主に学校での出来事を聞きながら何か考えていたようだった。  『部活』というキーワードを聞いて、ある提案をしてきた。  「学校に答えがあるとしたら私達、大人はそう簡単に動けない」  「た、確かに。答えが部活にあると来たら余計にだ。一応、学校にも協力してもらっているけど、部活がキーワードという事ならちょっと難しいな。下手な事をすれば、雫さんを自殺まで追い込んでしまった犯人を警戒させてしまう。できれば、こっそりと調べたいもんだ」  「そうだろうな。下手に犯人が分かっても素直に話す保証はどこにもない」  「むしろ、自分は違うと言ってきそうだし」  「あの、私から聞く事はできませんか?」  星宮が大人2人の会話を聞いて捜査の協力を申し出た。  「いや、ありがたいがそれじゃ、逆効果になる可能性もある」  「そうですか……」  「どうしたらいいものか。なぁ~蓮、なんか知恵を貸してくれよ」  簾堂は困り果てて親友の蓮に頼んでみた。  綾と渉に任せてみるのは、どうだ?  「綾ちゃんと渉君にか。でもいいのか、2人に任せても?」  「2人には探偵の心得はもちろん知っている。それに大人である俺達が動くのが混乱だったら、子供達に協力をお願いするしかないだろう?」  「それもそうだが……」  蓮は綾と渉を見た。  「2人の答えは学校ぶかつにあると考えた。だったら自分達でやってみなさい。いくつかの条件を出すが」  「「条件?」」  「2つある。1つ目は、危ない事はしない。あと調べた結果は、必ず報告する事。2つ目は、最後の結末、あるいは、犯人がいると分かったら父さんと秋於あきおも学校に行く。全て自分達だけでやらない事」  「そうだな。雫さんを自殺に追い込んだ犯人がいて、最後に何をするか分からない。大人2人くらい、いた方が2人にとって安全だ。2人が調べた結果を蓮から聞けば、俺的には問題はない」  「そーいう事だ。いいね、綾、渉。今回は自分達でやってみなさい」  「「はい」」  蓮は改めて星宮を見た。  「星宮さん、今回の依頼は、綾と渉の2人で解決するでいいかな?」  「あっ、はい。大丈夫です」  「ありがとう。未熟なところがまだあるかもしれない2人だが、君の力になってくへれると思う。けど、星宮さん。これだけは守ってほしい。2人の事は、部活のみんなや周りの人には内緒でお願いするよ。バレると捜査に影響がでるから」  「分かりました」  「じゃあ、綾と渉は2人で星宮さんを送ってあげなさい」  「「はい」」  青森雫の件についての話し合いは、いったん終わった。  これからは、綾と渉の2人が青森雫の自殺の原因は、学校にあるのではないかと考えついた事により、2人は学校で調べるという事になった。  今回は学生という事で大人より双子の方が学校でいろいろ調べる事ができるので2人に任せられた。  綾と渉は星宮を家に送る為に準備をする。外はもう暗くなっており、安全に依頼者を送る為に蓮は、綾と渉の2人に任せたのだ。  「あの、ありがとうございます。依頼を受けて下さって」  「いいや、こっちも調べていた事だから。偶然にも同じ事を知りたいと願った者同士が集まっただけさ」  「あっ、はい」  「綾、渉、気を付けて星宮さんを送ってあげなさい」  「「はい、行って来ます」」  綾と渉そして星宮が事務所から出て行き、事務所の中には大人だけが残っていた。  「しかし、本当にあの双子は、ますますお前に似て探偵らしくなってきたのな。久しぶりに会ってビックリしたぞ」  「そうだろうな。今まで2人には、簡単な依頼をやらせていたからなぁ~」  「将来は探偵か?」  「分からない。けど、今はそうなのだと思う。2人が決めた事には、あえて口にはしないさ。例え、親でも」  「そうかい。けど、綾ちゃんの推理には驚いた」  「綾は頭脳。渉は体力。互いに自然とかばいあっているから、さすが双子だよ。まぁ~どっちも文武両道だから、個人としても能力が高いが」  「どっちにしろ、お前の子供達はすごいよ」  「そうだろう」  「……全くお前、相当な親バカになったよ」  「……そうか? いや、そうかもな」  親友同士の2人の会話はまだ続きそうだ。父親として2人には、自分と同じ仕事、探偵をやってもらいたいと思いが強く感じられる会話だ。  3人は星宮の家に向かって歩いていた。  2人は、父親から星宮を家に送るように言われ、今は3人で歩いていた。  「捜査は明日からだな。どうする、綾?」  「そーね……」  綾は渉に言われて少し考え事をした。何かいい案が思い付いたのか、綾は星宮に話しかけた。  「あの……星宮さん」  「はい」  「星宮さんにも少し手伝ってほしいの。大丈夫、簡単な事だから」  「えっ、どんな事をやればいいのですか?」  綾は歩くのをやめた。つられて2人も歩くのをやめて綾を見た。  「星宮さんには、2つやってもらいたい事があるの。1つ目は、同じ部活の若菜に雫からの手紙がきたか聞いてほしいの。あと他に女子っている、1年生で?」  「いいえ、いません」  「じゃあ、話を聞かれたら、その時の若菜の様子をしっかりと見てほしいの。あと先輩にも聞いて貰えると助かるかな」  「はい」  「なぁ~、綾じゃあダメなのか。同じクラスだから綾でもいいんじゃあねーの?」  渉が綾に自分が思った疑問を問いかけた。綾はわりと素直に自分の思いを伝えた。  「それだと怪しいまれるかなって思っているの」  「どうしてなのですか?」  今度は星宮が質問してきたので、綾は2人にも分かるように説明を始めた。  「今、若菜は学校を休んでいるの。明日から学校に来るみたいだけど。普通に友達同士の会話で雫から手紙がきたのって、若菜からそんな話がでたら分かるけど、私も春奈からもそんな話題はでなかったの。あれから5日もたってもね。もちろん、若菜からもそんな話はなかったわ。若菜のお見舞いに行って3人で話し込んでいた時でも」  「じゃあ、若菜さんも貰っていないんじゃないのか?」  「そうかもしれないけど。あえて本当は貰っているけど、その[[rb:内容が部活 > ・・・・・]]に関係があったら同じ部活じゃあない人に話す?」  「……いや、話さない。そうか、同じ部活の星宮だったら心が落ち着いた時に話すかもしれない。逆に綾の予想通りだったら、どうして知っているのって聞かれる心配もない」  「そーゆうこと。それだったら若菜に怪しまれずにできる。そしてもう1つは、私の手助けをお願いできる?」  「手助けですか?」  「うん。私が天文部に入って捜査してみようと思うの。つまり、潜入捜査ね」  「綾が!」  渉と星宮の2人は驚いた。  「そう、渉だとバカ正直に答えそうだし」  「悪かったな」  「怒らないで。渉は周りの人にバレないよう調べて。そして星宮さんは、私と職員室で会って顧問から天文部に案内をするように言われ、一緒に来たと合わせてほしいの」  「はい、それくらいなら大丈夫です」  「ありがとう。じゃあ明日の4時10分頃に職員室で」  「はい」  「俺はまず……先生達に話を聞いてみるよ」  「そうね。何か新しい情報があるかもしれないし。私はまず、天文部の顧問のところへ行って、部活見学をしたいと言ってから行動していくわ」  「じゃあ、決まりだな。明日からやるぞ」  「「うん」」  3人は自分達がやる事を決めて、星宮の事を家に送ってあげた。  そして家に帰って来た2人は、父親との約束した報告、つまり明日からの学校で、どのような行動をするか父に伝えた。  明日から綾と渉の双子捜査が始まる。             5  捜査1日目。  綾と渉の2人は星宮サユリから依頼を受けた、青森雫の自殺した謎を解く為に今日から捜査を開始する。  その為、渉と綾は別行動を取る。渉はまず、先生達に話を聞く事から始める。  綾は天文部に見学という流れで天文部の顧問のところに向かった。職員室に入ると綾は、天文部の顧問である竹村たけむら先生のところへ行った。  「あの、竹村先生」  天文部の顧問である竹村先生は眼鏡をかけていて、優しそうな顔立ちをした30代半ばと見える男性職員だ。綾達1年生とは、関わりがないが2年の生物、あるいは科学の授業を教えている教員だ。  「あぁ、滝森さん」  「竹村先生、ちょっとお話が」  「あぁ、分かっているよ。滝森さんが話したい事も」  「えっ?」  「滝森さんの事はもちろん弟である渉君の事はもう聞いているよ。滝森さんのお父さんから」  先生は何もかも分かっているよと綾に一度、頷いてみせて綾にも分かるように説明してくれた。  どうやら2人の父、蓮が学校側に事前に連絡を入れてくれたみたいだ。  先生はもう一度、周りに生徒がいない事を確認してから綾に話しかけてきた。  「滝森さんのお父さんから学校に電話があった。ここにいる先生方、始め校長まで滝森さんの今から始めようとしている行動について知っているよ。もちろん、全校生徒には内緒にしている事も。[[rb:そこ > ・・]]は大丈夫」  「ありがとうございます」  「協力してほしい事があったら、その時は先生達に言いなさい」  「はい。ありがとうございます、先生」  綾は少し先生とお話をしてから先生に頭を下げて、職員室を出た。丁度その時、星宮と出会った。  星宮も綾に気が付いて近づいてきた。  「どうでしたか?」  「うん、大丈夫。お父さんが学校側に事前に連絡してくれたみたいなの。私と渉が動きやすいように」  「そうなんですか」  「うん。星宮さん、渉はまだ教室にいた?」  「あっ、はい。いたと思います」  「ちょっとメールしたいからいい?」  「はい」  綾は鞄から携帯を取り出して簡単な内容を打ち込み、渉にメールを送った。メール内容が受信されたのを確認してから携帯を鞄にしまった。  「じゃあ、星宮さんこれからよろしくお願いします」  「はい」  「あと私の事、綾でいいよ」  「!……そうですね、綾さん」  綾は星宮の案内で天文部の部室へ向かった。向かった先は第2理科室だった。そこが天文部の活動場みたいだ。  ちなみに理科室は2つあり、第1理科室は科学部が使っているらしい。  朝霧あさぎり学園は文科系と運動系のどちらにも力を入れている学園。なお、部活は強制ではないため、入らない人もいる。  星宮が部室のドアをノックして中に入った。中には8人の生徒がいた。  「遅かったね、星宮さん」  「すいません、職員室に用があったもので」  「そうか。で、そちらは?」  「初めまして滝森綾といいます。今日からしばらくの間、見学させて頂きたいと思いまして」  「見学?」  「あれ、綾!」  「どうも、若菜」  「若菜ちゃんのお友達?」  「はい。友達=クラスメイトです、小雪先輩」  「職員室に行った時に竹村先生がこちらの滝森さんが見学してから部に入るか、決めるみたいだから、部室に案内するように頼まれました」  「なるほど……では、ようこそ天文部へ」  天文部の部室に入ってみるとやはり、星宮と打ち合わせをして良かったというように部室の人にいろいろと聞かれた綾。  星宮のおかげで綾は怪しまれずに天文部に見学するという形で中に入れた。  「じゃあまずは、自己紹介からいきますか、部長」  「そうだね」  「じゃあ、そこは言い出しっぺから」  「って、オレから……まぁ、いいか。オレは[[rb:山里和志 > やまさとかずし]]、2年だ。よろしく!」  「あたしは[[rb:熊倉 > くまくら]]アズサ。同じく2年です。よろしくね」  自己紹介といった一人から時計回りで紹介されていく。まずは2年の2人から始まった。  山里和志は、ちょっとした問題児として有名なので綾も名前を聞いて、あの人がそうなんだと始めて知った。  問題児と言われているが暴力でという訳ではなく、ただの遅刻や身だしなみが悪い方で有名。両耳に小さいピアスをしていて、右手首にはリストバンドをしている。  次に熊倉アズサ。ショートカットの髪型で見た目は物事ははっきり言いそうなタイプに見える。和志と仲がいい2年同士に見える。  「あたしとサユリは知っているから大丈夫よね、綾」  「うん」  「あれ、星宮も同じクラスなのか?」  「いいえ。違いますよ、和志先輩」  「だったら、した方がいいんじゃないのか?」  「隣のクラスだから分かります。それに綾には、弟君がいるからサユリの事も知っていると思いまーす!」  「あーあ、そうか。名前を聞いて思ったけど、あの双子かい?」  「さすが部長。当たりです。ねぇ、綾」  「うん。私が姉で弟は渉と言います」  「なるほどねぇ~。弟君は、部活には?」  「入っていません」  「そうか。天文部に興味ないかな~」  「それは渉に聞いてみないと、なんとも」  朝霧学園の中で滝森と聞けてすぐに分かる人は、[[rb:あの双子 > ・・・・]]だと思い付くだろう。それだけ綾と渉の双子は学園の中では珍しいので、ちょっとした有名人だ。  「僕は[[rb:神森冬真 > かみもりとうま]]です。よろしくお願いします」  神森冬真は、優しい顔立ちと言葉遣いで物静かな少年に見える。  「[[rb:桜坂小雪 > さくらざかこゆき]]です。3年で副部長をしております。よろしくね、綾ちゃん」  髪を耳より少し高めのポーニティルで3年生だけど、笑うと少し幼く見てしまう。どこか可愛い先輩だ。  「そして部長の[[rb:藤村竜也 > ふじむらりゅうや]]だ、よろしく」  眼鏡をかけていて爽さわやかな笑顔は女性の心に響くだろう。学園で女子に人気と言われているのも分かる人だ。  「今日は12日にやった天文会の論文の結果を伝えて、今日の部活は終わりだ。竹村先生と相談したのだが、亡くなってしまった雫君の家に行く事が決まった。今日と明日と別れて行こうと思う。今日は先生と僕とアズサ、和志と若菜君で行こうと思う。でも先生は、少し方向音痴ほうこうおんちなところがあるから若菜君、辛いと思うが道案内を頼むよ。明日は星宮君でお願いするよ」  「「はい」」  「それで論文の結果は2位だ。1位はいつもの春山校だ」  「今回はすごいじゃあないの! 本当に2位なのね、和志」  「嘘いってどうするんだよ、アズサ」  「今日はこれで部活は終わりにする。そうだ、綾君。これを」  綾は藤村ぶちょうから何十枚と束になっている紙を渡わたされた。  「あの、これは?」  「これは12日に使った論文だよ。それを読んで見るといい」  「ありがとうございます」  「小雪。悪いが綾君にいろいろ教えてあげてくれないか。せっかく見学に来てくれて何もしないじゃ、意味もないし」  「良いわよ」  「じゃあ、よろしく頼むよ。えーと、和志とアズサ、そして若菜君は一緒に来てくれ。他は帰ってもいいよ。じゃあ、解散」  そういって部活は3人を連れて部室から出て行った。  部室に残ったのは、綾と星宮そして副部長の小雪の3名だった。  綾は適当に椅子に座り、横には小雪が、綾の前には星宮が座った。  理科室は四角い机に椅子が4つあり、4人が座れるような作りになっている。  「あの小雪先輩。私もご一緒してもいいですか?」  「大歓迎よ」  綾は論文を机に置いた。
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