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 山里和志が屋上の転落から学校は2日間休校になり、一番辛かった天文部も今では、なんとか部活活動している。けど、部活のムードメーカーと言える和志がいない存在は暗く辛いものがあった。  あれ以来、屋上に行くことはもちろん禁止されたまま、そして天文部の生徒、青山雫に続く山里和志と2人の生徒が亡くなってしまった。 (なんで和志先輩が殺されなくちゃいけなかったのかな。雫とは同じ部活以外に何か接点でもあったのかな?)  「今日も早いが部活を終わりにする」  「「「はい」」 「綾君。綾君。聞いているかい?」 「あっ、すみません。考え事していました」 「そうか。じゃあそれぞれ荷物を持って教室を出てくれ、鍵を閉めるから」  「……あの部長、私……もう少し、ここにいてもいいですか?」 「アズサ君……分かった」 あれからアズサは、みんなと一緒に帰る事が無くなった。それは和志の事故以来になる。 アズサの心の中では今でもあの時の事故は自分のせいだと自分を責め続けていた。それは違うと周りから言われても気持ちは固く、自分のせいだと今でも思い続けている。 「最後の鍵閉め……よろしくお願いするよ、アズサ君」 「はい」  それぞれが荷物を持って教室を出ていった。和志が亡くなってからはいつもアズサが1人、教室に残っている事が多くなっていた。  アズサと和志は恋人同士なので綾も和志が亡くなる前に始めて知った。2人は教室クラスが別々なので部活の時が一番アズサにとって和志と一緒に長く過ごした時間なのだ。  そしてアズサ以外の部位員は帰って行った。アズサだけが残った。  今日も誰もいない教室から泣き声が聞こえる。  「アズサ先輩」  アズサ1人しかいない理科室に声が聞こえた。アズサは後ろを見た。理科室のドアのところにたっている生徒がいた。  始めは驚いたアズサだがドアのところに立っている生徒が誰なのか分かるとまた、前を向いた。  ドアのところで立っていた生徒はゆっくりアズサのところに移動すると優しい声でアズサをもう一度呼んだ。  「アズサ先輩」  「○○○○○○……」  「大丈夫ですか?」  「ありがとう。ゴメンね、みっともないところを見てせ」  「いいえ。忘れ物を取りに戻って来ただけなので気にしないで下さい。あの、これ使って下さい」  「ありがとう」  泣いでいるアズサの姿にそばにいた人物はポケットからハンカチを取り出し、アズサに渡した。  涙声でアズサはお礼を言ってハンカチを受け取り、涙を拭ふいていく。しかし、涙を拭いても留まるどころか次から次へと涙が溢れ、しまいにはハンカチを広げ顔全体を隠した。  そばに居た人物はそのまま見守っていた。  顔を隠してから2分後にドサッとイスからアズサが転び落ちた。  一緒に居た人物はアズサが倒れたのに慌てる様子もなくただ、『2人目の天罰』と小さく洩もらした。  洩らした声はアズサの耳には届いていなかった。  アズサと一緒にいた人物は表情を消したまま、ただアズサを見下ろしていた。  とても冷たい瞳で。  次の日。朝から学校は大変な騒ぎになっていた。  綾と渉はいつもと同じ時間帯に登校してきた。綾と渉の教室は2階なので階段を上がる前からもう学校中が騒ぎになってなっていた。  「あやっぺ、あやっぺ、大変だよ」  綾より早く学校に登校していた春奈が綾の姿を見つけると直ぐに綾の元に来た。  「おはよう、春奈。学校中が騒ぎになっているみたいけど何かあった?」  「おはようって、それどころじゃあないのよ!」  「ど、どうしたの?」  綾は隣にいる渉を見た。渉にも何が何だか分からないという顔をしていた。  「どうしたのよ、春奈。とにかく落ち着いて!」  「大変なの体育館で死体が発見されなみたいなの!」  「「えっ!」」  綾と渉は驚いた。春奈は息を切らしながら2人に説明をしていく。  「私もさっき来たばかりだから詳しくは知らないけど、どうやら女子生徒みたいなの」  「!」  綾は渉を見て渉が頷くのを確認してから春奈に話しかけた。  「春奈。確か体育館って言っていたわね」  「うん。バスケ部の生徒が見つけたって」  「ありがとう。渉」  「うん」  「えっ、ちょ、ちょっと綾。それに渉君も。もしかして見に行くの? 行かない方がいいって!」  春奈が呼び止めるのを振り切って2人は体育館の方へ向かった。  体育館に行ってみると入口前では警察の人の姿が見えた。3人くらい立っていて生徒を中に入れさせないようにガードしていた。人が多いせいか奥の様子が分からない。  『お知らせします。生徒の皆さんは一度教室に戻って下さい。もう一度お伝えします。生徒の皆さんは教室に戻って下さい』  放送が流れ生徒が戻り始めた。  「綾、戻ろう」  「そうね……」  綾と渉も教室に戻った。  教室に戻っても教室の中は朝の出来事で話題でいっぱいだった。時間がきて担任から連絡事項が伝えられた。そこで亡くなった生徒の名前が伝えられた。  その名前を聞いた瞬間に教室は再びざわめきはじめた。  亡くなった生徒は2年生の女子生徒。名は熊倉アズサ。2年生で天文部の生徒だったからだ。  名前を聞いた瞬間に綾は驚いた。またも天文部の生徒。  担任の話が終わると今日はそのまま下校するようにと言われた。けど、天文部の生徒だけは第二理科室に行くように言われ、再び教室はざわめいたが担任の声で静かになり今日の学校はここまでになった。  綾は第二理科室に向かった。綾も正式の部員ではないが第二理科室に行った方がいいと思っていたからだ。  第二理科室に着くとドアをノックして中に入った。そこには天文部の生徒と顧問の竹村先生と警察の人がいた。警察の人は2人いた。どうやら綾で最後みたいだ。    「これで全員ですか、先生?」  「はい、そうです」  「分かりました。集まって頂きありがとうございます。皆さんはもう朝の連絡で知っていると思いますが熊倉アズサさんが亡くなりました。熊倉さんは天文部に入部していたという事でお話を聞かせて頂きたいと思います」  「僕達ですか」  「はい」  「何でですか?」  「熊倉さんが亡くなったのが夕方から夜にかけてだと分かったからです」  「「「「「!!! 」」」」」  部長の質問に警察の人が答えてくれた。その言葉にその場にいる全員が言葉を呑んだ。  綾だけはアズサが亡くなったことを知った瞬間に天文部の人達が呼ばれるだろうと何となく分かっていたからそんなに驚いてはいなかった。逆にみんなの様子を見ていた。  「話して欲しいと言われても……」  「何かあるんですか?」  「いいえ。昨日は部活が終わった後にみんなでここを出ましたから」  「アズサちゃんが最後まで残っていました。和志君が亡くなってからずっと部活が終わっても1人で最後まで残っているんです」  「そうですか。一応、1人ずつお話を聞かせて頂きたいです。先生、いいですか?」  「はい。ご協力します」  その後は、教室を2箇所使って警察の人に1人ずつ話をした。話し終わった人から帰宅して行った。  午後。学校が午前中で終わったてしまったので午後に簾堂と箕上刑事が事務所にやって来た。  今朝、学校で死体が発見された。またも天文部の生徒。その事は、綾より早く帰って来た渉が父、蓮にも伝えてあるのでもちろん蓮も2人の刑事が来ても要件は分かっていた。  蓮が2人を事務所の中に入れて移動するとソファーには綾と渉が座っていた。  「綾、渉。秋於に箕上刑事が来た」  「来たぞ~」  「こんにちは」  「「こんにちは~」」  メンバーが揃ったところで今朝、学校で起きた事件について詳しい内容が2人の刑事によって説明された。  「被害者は熊倉アズサさん。高校2年生。アズサさんが亡くなって24時間が経っていました。アズサさんは夜の7時頃に殺害されたと考えております。そしてアズサさんは、犯人と争ったあとはありませんでした」  「おそらく彼女は、犯人と顔なじみで警戒をしていなかった。まずは、睡眠薬で気絶させられ、意識がない時に犯人によって運び込まれ体育館から首に縄をかけた状態で吊り下げられたと考えている」  「体育館のどこだ?」  「2階です。2階から吊り下げられ、絶対に足が届かないようになっていました」  「酷いものだ。犯人の恨みを感じるよ。彼女にトラブルは?」  「ない。全然ない」  「無くっても実際に殺害されてしまった」  「そうだ。しかも今回は殺人だ」  「綾と渉の前ではあまり言いたくないが天文部の生徒達のアリバイは、もちろん聞いたのだろう?」  「もちろん、聞いたさ」  「どうだった?」  蓮は信じたくない事だが天文部の生徒全員分のアリバイを簾堂に聞いてみた。  聞かれた簾堂は自分の手帳を見ながら話を始めた。  「全員、彼女が殺害されたと思われる時間帯はみんな家にいた。けど2人だけはその時間帯にいなかった事が後から分かった」  「後から? 簾堂さん、誰ですか?」  「部長と若菜という生徒だ」  「えっ!」  「秋於。後から分かったってなんだ?」  「でまかせだ」  「「「!」」」  「どういう事だ?」  「嘘をついていたんです」  「嘘ですか、箕上さん」  「はい。始めは2人とも家にいたと言っていましたが、調べてみると家にはいなかったという事が分かりました」  「一応、アリバイを確認したんだな、秋於」  「それはそうだ」  綾と渉は黙って話を聞いていた。  「若菜さんは塾。部長さんは友達の家に行っていた事が分かりました」  「じゃあ何で若菜さんと先輩は嘘をついたんだ? それにどうやって2人が嘘をついているって分かったんですか?」  渉の質問に簾堂と箕上が答えた。  「俺が若菜という少女の通っている塾に行き、箕上は藤村という少年の行動を調べた。若菜という少女はその日は塾はお休みで、藤村は友達の家に来てはどこかに行ったと」  「それじゃあ、なんで嘘を? 本当のことを言った方がいいのに?」  「渉もそう思えるよね」  「あぁ」  「何か嘘をつかないといけない事でもあったのか?」  「それが分れば苦労はないだろう、蓮」  「その通りだな。分かっていればここには来ないか」  「そうだよ。もう少し詳しく調べてみるが」  「そうしてくれ」  「はいはい、分かった」  2人の会話を見ていた綾と渉はそれぞれ自分の考えをまとめていた。そして蓮は自分の子供達に話を振った。  「どう思う、綾、渉」  蓮は綾と渉に話しかけた。自分たちの考えや疑問を言ってみなさいと。まずは綾の方から質問を始めた。  「あの、和志先輩の時と同じ手紙はありましたか?」  「いいえ、今回はなかったです」  「そうですか……」  「やっぽりあの手紙が殺していく順番だったりするのか?」  「その可能性とあるが、なぜ今回はなかった?」  「今回は必要なかったとしたら……」  「どういう事だい、綾ちゃん?」  「簾堂さんが言ってようにアズサ先輩は犯人と顔なじみで、犯人はアズサ先輩の行動をよく知っていたと思います」  「行動ですか?」  「はい。最近のアズサ先輩は、和志先輩が亡くなってしまった事を自分のせいだと思い込み、アズサ先輩はいつも部活が終わっても最後1人で理科室に残っている事を知っていたということです」  「そこを犯人は狙い目だと思い、手紙を用意しないでいきなりの計画でやったという事か、綾」  「いきなりかは分からないけど……でも、アズサ先輩を狙っていたのは確かだと思うよ、渉」    「でも、どうして彼女が?」  「それは……まだ、分かりませんが和志先輩、アズサ先輩の2人は少なくとも雫と何か……係わっていたのではと私は思います」  綾は落ち着いた声で話した。  「何かこれと思うものでもあるのかい、綾ちゃん」  簾堂は綾に質問してきた。綾は自分の膝あたりにずっと持っていた論文をテーブルの上に置いた。  「これは?」  「天文部の論文です。私と渉は、今回自殺してしまった雫と繋ぐ物だと思っています。この論文が鍵かもしれないと思っています」  「繋ぐ……物」  綾が簡単に説明をした。  「この論文を書いた人物は部長の藤村先輩となっています」  「あっ、名前がありますね」  「けど、これを書いたのは部長ではなく、違う人です」  「違う人? じゃあ、誰が?」  「それがまだ、分からないです。名前が消されていて見えるか、見えないかの境目さかいめなので」  綾は名前が書いてあるところを指でさしてみんなに見せた。  「ほんとだ。綾ちゃんの言う通り、確かに消したあとがある」  「論文を書いたら必ず名前を書くのが天文部の決まりなんです。天文部全員が書くので誰が書いたか分かるように。この論文を本当に書いた人が分かれば……」  「今までの事を繋ぐ意図が見えてくるという事かい、綾」  「はい。明日は休みなのでもう一度、学校に行って調べてみようと思います。手伝ってね、渉」  「いいよ、綾」  「分かった。また、明日ここに来る。もしかしたら、次の犯人の行動を止める事が出来るかもしれないし」  「はい。これ以上、殺人は起きてほしくないです」  「そうですね」  今日の話し合いはここまでとなった。2人の刑事は事務所を出ていった。  刑事が出ていった後に綾はソファーのところで論文を見ていた。  渉と蓮は2人で話し込んでいた。  論文を見ていた綾はふっとなにか思いついたのか、鉛筆を父の机から持ってくると名前が書いてある方ではなく、反対の名前を消した方を軽くこすってみた。ボールペンで名前を書かれたと思わせる跡だったので最後まで、軽くこすってみるとそこには、ある人物の名前が浮かんできた。  綾はそれを急いで渉と蓮に見せた。綾を始め2人も驚いた表情を見せた。  その後、綾と渉そして蓮の3人でいろいろ話し合っていた。          ***  数時間後にまた、簾堂と箕上の2人の刑事が探偵事務所に戻ってきたのだ。何か調べていたものが分かったのか、何か情報を持ってきたみたいだ。  「すまんな、また来る羽目になって」  「別に構わないさ。でも、何か情報を持ってきたんだろう?」  「もちろんさ」  もう一度、2人の刑事と親子で話し合いが始まろうとしていた。  「お父さん、外の看板を本日の営業終了にしてくるね」  「ありがとう、綾。渉、綾だけじゃあ大変だから手伝ってあげなさい」  「はい」  2人は一度、外に置いてある看板と入口に飾ってある看板をどちらも本日の営業終了とかえて、2人は事務所に戻った。  2人が戻らるとそこには、母親が入れてくれた紅茶があった。  「二人共、早く温かいものを飲んで温まりなさい」  「ありがとう、お母さん」  「ありがとう、母さん」  「さて、綾ちゃんと渉君が戻って来た事だし話すか」  「「お願いします」」  綾と渉が戻ってきたので簾堂は自分たちが調べてきた事を話し始めた。  それを聞いた綾と渉は信じられないと思いたかった。けど、まずは綾が気になっている論文について明日、学校で確認することを決めた。
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