一 中尾太平

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 校長室のドアをノックし、応接間にも似た部屋に入る。窓を背にして座る校長の顔には疲労が色濃く出ており、恰幅のいい身体がややしぼんでいるようにすら見えた。 「朝から呼び出してすみませんね。どうぞお座りになってください」  この時点で、すでに遠野の嫌な予感は確信に変わっていた。だいたい校長に呼び出されるときは、席など勧められないからだ。  話が長くなるのがこれではっきりした。  気が進まないながらソファに座る。校長は眼鏡を外して眉間をつまみ、いかにも無理やりな笑みを浮かべた。 「さっきまで刑事さんたちが来ていたものだから、私も少し疲れてしまってね。いや、思っていた以上に気力を使うものですな。同じことを何回もきいてきたりするものだから」 「刑事?」  校長は眼鏡をかけ直してうなずいた。 「昨日の晩、生徒がひとり行方不明になったのです。あの旧校舎で」  遠野は眉を跳ね上げた。実のところ、生徒が行方をくらますのはめずらしいことではない。たいがいが二、三日の家出で、本人がけろっとした顔で帰ってくるのがオチ、というのがほとんどだ。学校内ですらほとんど話題にならない。  しかし行方不明になった翌日に刑事が校長に話を聞きにくるというのは、ここに勤めて以来初めてのことだ。 「南雲(なぐも)(しょう)、という生徒をカウンセリングしたことはありますか。行方不明になった生徒ですが」 「いえ。覚えはないですね」  南雲が中等部時代にカウンセリングを受けているなら中等部の校舎にカルテが保存されているか、中等部のカウンセラーから引き継ぎがあったはずだが、少なくとも自分はそのような記憶はない。  そう伝えると校長は資料をめくり、 「南雲くんは高等部に外部入学してきた生徒ですから、あなたが受け持ったことがないのなら少なくとも表立った問題はなかったのでしょうね。ますます分かりませんな……」
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