序 首折れミヤコ

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序 首折れミヤコ

 近づいてくる。  一定の速度で。月の光しか頼りにならない、校舎の廊下を歩いてきている。    この三時間もの間、ずっと自分と友人たちをつけ回していた、上履きの音。  どこに逃げても必ず先回りしてきた、忌々しい死の靴音。  友人たちと逃げていたときと、足音の速さが違う。  もう、こいつは追っているのではない。追いつめて、あとは仕留めるだけという、余裕すら感じる。  目の前の獲物が逃げないことを、分かっているのだ。  こきり。  首の骨が鳴る音が、暗闇の中から聞こえる。  こきり。こきり。  念のため振り向いてみたが、友人たちの姿はとうに見えない。みんな、逃げたのだろう。喜んでいいのか、誰も自分を助けに来ないことを恨んでいいのかは分からないが。  こき。  月光が、埃にまみれたガラス窓を通して差しこんでいる。その光にぼんやりと照らし出される、背の高い女子の姿。  噂通りの中等部の制服。長い髪。顔は髪がかぶさって見えない。  髪をかき上げられないのだろう。  手を頭から離せば、首ががくりと。  垂れ下がってしまうだろうから。  近づいてくる。  もう三メートルもない。  ゆっくりと、目を閉じる。  死ぬ準備を、しなくてはならない。
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