42人が本棚に入れています
本棚に追加
序 首折れミヤコ
近づいてくる。
一定の速度で。月の光しか頼りにならない、校舎の廊下を歩いてきている。
この三時間もの間、ずっと自分と友人たちをつけ回していた、上履きの音。
どこに逃げても必ず先回りしてきた、忌々しい死の靴音。
友人たちと逃げていたときと、足音の速さが違う。
もう、こいつは追っているのではない。追いつめて、あとは仕留めるだけという、余裕すら感じる。
目の前の獲物が逃げないことを、分かっているのだ。
こきり。
首の骨が鳴る音が、暗闇の中から聞こえる。
こきり。こきり。
念のため振り向いてみたが、友人たちの姿はとうに見えない。みんな、逃げたのだろう。喜んでいいのか、誰も自分を助けに来ないことを恨んでいいのかは分からないが。
こき。
月光が、埃にまみれたガラス窓を通して差しこんでいる。その光にぼんやりと照らし出される、背の高い女子の姿。
噂通りの中等部の制服。長い髪。顔は髪がかぶさって見えない。
髪をかき上げられないのだろう。
手を頭から離せば、首ががくりと。
垂れ下がってしまうだろうから。
近づいてくる。
もう三メートルもない。
ゆっくりと、目を閉じる。
死ぬ準備を、しなくてはならない。
最初のコメントを投稿しよう!