言えなかった言葉

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言えなかった言葉

桜舞うなか、わたしと佐山先輩は向き合っていた。 「佐山先輩、卒業おめでとうございます!! あの、最後にいいですか? わ、わたしと付き合ってくださいっ!!」 佐山先輩は 大きな瞳でわたしを見つめ、にゃーんと鳴いた。 そう、わたしはこの黒猫を前に告白の 練習をしているのだ。 「なにしてんの、さくら」 さ、佐山先輩っ! 「いや、これはっ」 しまった。 「もしかして告白の練習してたの?」 にやりと意地悪な笑みを浮かべる先輩。 ムッ 「先輩には関係ありませんっ!」 プイッと顔を背ける。 「あれ〜、佐山先輩って聞こえたんだけどなぁ」 「ち、違いますっ!別の人ですっ!」 目線を下に向けると先輩はおかしそうに笑った。 「仕方ないなぁ、そういうことにしといてあげる」 先輩は桜の木を見上げ、「今日で、さくらともお別れだね」と呟いた。 「そうですね…先輩っあのっ」 チャンスは今。 いけ。言うんだわたし。 先輩はわたしに目線を移した。 目が合ってドキッとしてしまう。 「す…」 「す?」 「スキーは得意ですかっ?」 やってしまった。 好きって言おうとしたのに わたしの意気地なしっ!! 先輩は戸惑った顔を見せた。 「得意だよ。でもなんでスキー?」 「それはっ」 あー、結局言えなかった。 「秘密です。卒業おめでとうございます、先輩」 先輩は照れ臭そうな顔で笑った。 いつもは見せない無垢な表情に胸が高鳴った。 先輩 大好きです。 こうしてわたしの初恋は終わりを告げたのだった。
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