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 一週間前。男はいつも通りとあるヤクザの幹部の娘を護衛していた。 「タケヒロ……いつもながら遅い!」 「……申し訳ございません。しかしお嬢様。バスまでの道のり、何が起きるか分かりません故に注意を払って進まなければなりません」 「……だからって私の前で立ち尽くすのは辞めて! あぁ……護衛人ってなんで融通の聞かない奴ばっかなんだろう……。いつも何も起こらないじゃない。バスまでの三分程度の道のりよ。そんなに心配しなくても大丈夫よ……」 「その油断が事件を起こすのですよ」 「……ふーん」 「あ! お嬢様! 私の前に出てはなりません!」 「はん! 護衛人に縛られる毎日はゴメンよ!」 「ま、待ちなさい!」  男……タケヒロは、いつも通りレイカのワガママに嫌気を指していた。少し前まではレイカの兄にあたるリクの護衛を任されていた。リクが高校を卒業した時、小学六年生の長女のレイカの護衛を任されるようになっていた。  タケヒロも含めた護衛人達はこの年頃の子どもには手を焼かされる。  何かと大人ぶりたくなる年頃で、まだ十数年という短い人生の中で培った経験から、世の中の全てを知ったかのように自分勝手な行動をしだす時期。世の中がどれだけ危険か本当は何も知らないくせに、自分が大人になったと勘違いする年頃。タケヒロは正直、この年頃の子どもの護衛は嫌いであった。  逆にそんな反抗期差し掛かりのレイカも常に自分の行動を逐一監視している護衛人とかいうおっさんの存在が鬱陶しくもなってくる。  帰り道も、友達とショッピングに行く時も、公園で鬼ごっこをする時も、どこへ行っても護衛人は着いてくる。自分の自由が制御されているという事に気づき始める。だからこそ監視から逃げて自由に一人で生きてみたいのだ。レイカはタケヒロの事が嫌いだった。 「お嬢様! 走ると危ないです!」 「うるさいな! 私を捕まえて見せなさいな! 少しでも乱暴したらあんたのクビが飛ぶわよ!」 「……!」  タケヒロとレイカ。お互いの気持ちの揺らぎが今回の事件は起こしたのだった……。
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