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「あの……先生。これ、ありがとうございました」
相変わらずの小さな声でそう言いながら、すっと目の前に出されたのはピンク色のタオルハンカチだった。
「……すごく……大切なもの、だったので」
中野さんは俯いており、こちらを見てはくれないが、頑張って喋っているのが伝わってくる。
「う、ううん! いいんだよそんな! 先生も、中野さんの力になれて嬉しいな」
わざわざ職員室までお礼を言いに来てくれたのが嬉しくて、ついにやけてしまう。植木先生にお礼に行くよう言われただけかもしれないが、それでも嬉しいものは嬉しい。
「何か困ったことがあったら言ってね。その……2階のことでも良いし、別のことでもいいから」
そう言ってから、仮に困ったことがあっても中野さんは恐らく植木先生か才川先生に頼るだろうと思った。恐らくわたしにできることは少ないだろうが、せめて本音で話せる人間のひとりでありたい。
などと考えていたが、わたしの言葉を聞いた中野さんは思わぬ反応を見せた。
ぱっと顔を上げて、縋るような目でこちらを見つめてくる。控えめに、しかし確かな意思をもって、小さな唇が動いた。
「え、えっと……じゃあ……」
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