*花と雪

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*花と雪

東京の片隅にある、小さなカフェ、エトワール。 私は片づけをすませると、制服のエプロンをはずして、タイムカードを押した。 いつもと同じように――、でもいつもと違うのは、今日でこのカフェが閉店だっていうことだ。 「花ちゃん、お疲れさまでした」 店長が、薄い笑みを浮かべて立っている。 「花ちゃんには、今までがんばって働いてもらって、ありがたく思ってます。これケーキ持って帰ってね。売れ残りで悪いけど」 「ありがとうございます」 ケーキの入った箱を受け取ると、私はニコリと笑顔を作った。 鈍く光るドアノブをまわし、裏口から外に出ると、夕方の湿った風が頬をかすめる。 神崎花(かんざきはな)。ニ十歳。 カフェ、エトワールのバイト店員。そして、明日から無職です。
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