62人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
*うるはしき白薔薇邸
薫さんのあとをついて、夜の道を歩く。
たどり着いたのは、物語に出てくるような、レンガ造りの洋館だった。
鉄の門扉をあけると、ギイと重厚な音が響く。
ガス灯に照らされて、庭に植えられた草花が、ぼんやりと浮かび上がっている。
「薔薇の香りがしますね」
私は鼻から息を吸い込んで言った。
「ここは昔、祖父母から譲り受けたものでね。薔薇は祖母が好きだったそうだから、切ってしまうのも気がひけて。……足もとに気を付けて」
玄関ポーチの短い石段をのぼり、真鍮のノッカーのついた扉を開けた。
中は静かで暗く、ひんやりとしている。
「一人暮らし……なんですか?」
「君は二階を使うといい。心配なら鍵がかかるから」
薫さんの二、三段うしろについて階段をのぼりながら、私は密かに赤面する。
このきれいで涼しげな人が、急に態度を豹変させて、私のような小娘に襲い掛かかろうとは、とても思えず……。
二階のいちばん奥のドアを開けて、中に入る。
火のついていない暖炉とマントルピース。
毛足の長いじゅうたんと、重ったるそうなカーテン、白いベッド。白い壁には、繊細な細工がほどこされた鏡がかかっている。
「素敵な部屋……」
最初のコメントを投稿しよう!