*うるはしき白薔薇邸

1/10

62人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ

*うるはしき白薔薇邸

薫さんのあとをついて、夜の道を歩く。 たどり着いたのは、物語に出てくるような、レンガ造りの洋館だった。 鉄の門扉をあけると、ギイと重厚な音が響く。 ガス灯に照らされて、庭に植えられた草花が、ぼんやりと浮かび上がっている。 「薔薇の香りがしますね」 私は鼻から息を吸い込んで言った。 「ここは昔、祖父母から譲り受けたものでね。薔薇は祖母が好きだったそうだから、切ってしまうのも気がひけて。……足もとに気を付けて」 玄関ポーチの短い石段をのぼり、真鍮のノッカーのついた扉を開けた。 中は静かで暗く、ひんやりとしている。 「一人暮らし……なんですか?」 「君は二階を使うといい。心配なら鍵がかかるから」 薫さんの二、三段うしろについて階段をのぼりながら、私は密かに赤面する。 このきれいで涼しげな人が、急に態度を豹変させて、私のような小娘に襲い掛かかろうとは、とても思えず……。 二階のいちばん奥のドアを開けて、中に入る。 火のついていない暖炉とマントルピース。 毛足の長いじゅうたんと、重ったるそうなカーテン、白いベッド。白い壁には、繊細な細工がほどこされた鏡がかかっている。 「素敵な部屋……」
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加