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「小太郎はピュアだねえ……」
「ぴゅあ? ぴゅあとは何ですか?」
首を傾げる小太郎君に、薫さんが笑いながら言った。
「……何でもないよ。
さ、あとはもういいからもうお帰り。今夜は満月だよ」
小太郎君は、ハッとしたように顔をあげて言った。
「すみません、気が付かなくて。俺、邪魔ですよね。
これ片づけたら、すぐ帰りますね」
小太郎君は、あわただしく食器をしまうと、和服にたすきがけしていた紐をほどいて、袖を直した。
「それでは、おやすみなさいませ。薫さま。花さん。また明朝、参ります」
深々とおじぎをする小太郎君の頭の上に、薫さんは、ぽんと手をおいて言った。
「あのね、小太郎。
僕は君を、邪魔だなんて思ったことはないよ。
小太郎は、毎日よくやってくれている。僕には、小太郎以外の使用人は考えられないよ」
「か、薫さま……」
小太郎君は、感動したらしい。
着物の袖で、そっと目元をぬぐいながら、
「ありがとうございます。あの……俺。
お、俺も、薫さまにお仕えできて、よかったなって……」
「はいはい。分かったから、もう早く帰りなよ」
「……なっ。やっぱり邪魔なんじゃないですかっ!?」
「あはは、そんなことないってば」
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