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小太郎君が帰ってしまうと、急に部屋が静かになった。
……薫さんと二人きりだ……。
意識すると、妙にソワソワしてしまう。
気まずいような、恥ずかしいような。
薫さんは、なんとも思ってないのかな?
「ええと……薫さん?」
「ん?」
「ええと……あのう、なんでもないです」
へらっと笑いかけると、薫さんがほほえみ返してくれる。
「花。こっち」
いつもより甘い感じのする声に反応して、心臓がドキンと跳ねる。
薫さんが私の腕を軽く引いて、あれよあれよという間に、二人でソファに倒れ込んでしまう。
「か、薫さん……」
めまいのするような沈黙が降りて、甘ったるく視線が絡む。
目を閉じると唇が重なって、私はうっとりしてしまった。
「ねえ、花。これからどうしようか」
「どうって……?」
「夜はまだ長いからね。ずっとこうして抱き合ってようか」
「そんな。やだ。薫さんったら……」
「……やだ?」
ブルーグレーの瞳が、いたずらっぽく私を見つめる。
私はその瞳の中に囚われてしまって、あらがえない。
たぶん、はじめて出会った時から、ずっと……。
ドキドキと胸が高鳴る。
こんなふうに時を超えて、巡り合えたこと。
いま、そばにいて触れられること、これからも一緒にいられることが嬉しくて。
「薫さん……」
私はいとしい人の名前を呼んで、目を閉じた。
~おしまい~
ご愛読、ありがとうございました!
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