*うるはしき白薔薇邸

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薫さんは、自ら車を運転して出勤しているらしい。 小太郎君と一緒に、カーポートのところまで、薫さんを見送ることにした。 庭先に咲く薔薇の、ほのかにいい香りが鼻をかすめる。 「行ってらっしゃいませ」 小太郎君が頭をさげたので、私もぺこりと頭をさげた。 「行ってらっしゃいませ……」 慣れない言葉づかいのせいか、ちょっと照れくさい。 私は「気をつけてえー」と付け加え、両手をブンブンと大きく振った。 薫さんは、運転席側のドアを開け、くるりと振り返ると戻ってきた。 「あれ? 忘れ物……ですか?」 薫さんは黙ってほほえむと、私に近づき、少しかがんだ。 「んっ?」 「……外国の、あいさつ」 ブルーグレーの目が、いたずらっぽく、私の顔をのぞきこむ。 私はすぐに気が付かなかった。 私の頬に一瞬触れた、柔らかなぬくみ。 それが薫さんの、唇だということに……。 軽やかに立ち去る薫さんを見送り、私は思わず頬を押さえた。 どうしたってドキドキしてしまう。 外国では……って、私、日本人だし。 先祖代々、生粋の、日本人だしっ。 心の中でキャーキャー騒く。 小太郎君がしらけた表情で、ちらっとこっちを見たのが分かった。
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