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泊めてもらったお礼というわけでもないけれど、せめて食器くらいは洗わせてもらおう。
小太郎君に断って、私は台所の中に入った。
シンクには、朝食で使った食器が重ねてある。
腕まくりをして、つぶやいた。
「ええと。スポンジは……。
このたわしを使っていいのかな。洗剤は……」
探してみても、洗剤がない。
棚の中を探してみたけど、なんだかよく分からない。
背伸びして、シンクの上の扉を開けてみる。
とたんに、ガシャーン、と派手な音がして、鍋やらカナダライやらが落ちてきた。
さっと身をかわして、私は胸をなでおろす。危なかった。
それにしてもカナダライとか、
「コントじゃないんだからさ」
と、ひとりツッコミを入れて苦笑する。
「何やってるんですか?」
振り返ると、小太郎君が後ろに立っていた。
「ええと……洗剤がないなあ、と思って」
「こんなところ探しても、金目のものはないですからね」
「金目のもの? カナダライとか?」
「はあ? 何を言っているんですか?」
小太郎君の、冷ややかな目を見て気が付いた。
私は、金品を盗もうとしたと、そう思われているのだ……。
「違います。私は……何も」
ヘラヘラとほほえみかけると、
「出て行ってもらえませんか?」
小太郎君が言った。
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