*うるはしき白薔薇邸

9/10
前へ
/123ページ
次へ
泊めてもらったお礼というわけでもないけれど、せめて食器くらいは洗わせてもらおう。 小太郎君に断って、私は台所の中に入った。 シンクには、朝食で使った食器が重ねてある。 腕まくりをして、つぶやいた。 「ええと。スポンジは……。 このたわしを使っていいのかな。洗剤は……」 探してみても、洗剤がない。 棚の中を探してみたけど、なんだかよく分からない。 背伸びして、シンクの上の扉を開けてみる。 とたんに、ガシャーン、と派手な音がして、鍋やらカナダライやらが落ちてきた。 さっと身をかわして、私は胸をなでおろす。危なかった。 それにしてもカナダライとか、 「コントじゃないんだからさ」 と、ひとりツッコミを入れて苦笑する。 「何やってるんですか?」 振り返ると、小太郎君が後ろに立っていた。 「ええと……洗剤がないなあ、と思って」 「こんなところ探しても、金目のものはないですからね」 「金目のもの? カナダライとか?」 「はあ? 何を言っているんですか?」 小太郎君の、冷ややかな目を見て気が付いた。 私は、金品を盗もうとしたと、そう思われているのだ……。 「違います。私は……何も」 ヘラヘラとほほえみかけると、 「出て行ってもらえませんか?」 小太郎君が言った。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加