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「金銭も受け取ったようだし、もう充分でしょう?
時間旅行だか帰国子女だか知りませんが、どうせうまい作り話で薫さまの興味をひいて、たぶらかしたんでしょう?」
「そ、そんな」
私は、ぎゅっとスカートのすそを握りしめた。
……考えてみれば、小太郎君がそんなふうに思うのも、無理もないかもしれない。
薫さんに親切にしてもらって、部屋をもらって。雪ちゃんが見つかるまで、ずっとここにいいのか、と思ってしまったけど。
でも、別に薫さんにとっては、なんのメリットもないものね……。
もちろん、小太郎君にとっても。
「でも私……困ってて」
私は、考え考え、口を開いた。
「私、妹とはぐれて、すごく困っていたの。
ここがどこかも分からなくて、お金も持ってなくて……食い逃げだあ、なんて騒がれて。
そしたら、通りすがりの薫さんが、手を差し伸べてくれたの。
純粋な善意と、少しの好奇心で。
メリットなんて、きっと薫さんには関係
ないんだよ。私は、薫さんに会えてよかったなあ……って感動したの。
小太郎君の朝ごはんもおいしくて」
「支離滅裂ですね。何を言っているか分かりません」
「うん。……ごめん」
小太郎君は、腰に手を当てて、ため息をついた。
「俺はただの使用人です。
だけど自分の仕事に誇りを持っています。
俺の仕事は、この家と薫さまをお守りすること。薫さまに危害を及ぼしそうな害虫は、早めに駆除します」
「が、害虫……」
「分かりませんか? これ以上ここにいられても迷惑だって言ってるんです」
小太郎君が、すっと玄関のほうを指さした。
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