*みるくほうる びいどろ

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*みるくほうる びいどろ

朝の町をトボトボと歩く。 砂煙の舞う道路や店先を、太陽が照り付けている。 馬車や人力車がすぐ横を通り抜けて、「おお……」と思わず声がこぼれた。 本当に百年前なんだなあ、と思う。 大正時代だ……。 誰にも助けてもらえない、ひとりぼっちなんだと思うと、心細くなる。 そっと右の頬に触れてみる。 薫さんの唇の感触……。 私は頭をぶるぶる振った。 とにかく、今は雪ちゃんを探すことだ。 雪ちゃんを見つけたら、一緒に薫さんのお家に行って、きっとありがとうって言おう。 私は、プリントシールを取り出して眺めた。 姉妹で並んで、ピースをしている小さな写真。 雪ちゃんは、昨夜どうしただろう。 私と同じ、一文なしだったはずだ。 どこに泊まって、何を食べた?  しっかり者の雪ちゃんのことだ、泣いたりなんてしないだろうけど。 きっと私を心配して、探してるだろうなあ……。 とにかく誰かに、雪ちゃんを見なかったか聞いてみよう。 キョロキョロしていたら、建物のなかから、ひとりの女の子が出てきた。 花柄の着物に、白いレースのエプロン。 ひとつに結いあげた髪に、リボンをつけている。 いかにも「大正ロマン」といったスタイルで、朝ドラの主人公みたいだ。 かわいいなあ……。 見つめていると、彼女は立て看板を、店の前によいしょ、と置いた。 看板には「みるくほうる びいどろ」と書いてある。 このお店の、店員さんなのだろう。 女の子は、私の視線に気が付いて、ニッコリした。
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