*花と雪

4/4
前へ
/123ページ
次へ
二人して家に戻ると、雪ちゃんは私を、ガレージに誘った。 薄暗いガレージには、ダンボールやら木片やらが、ごちゃごちゃと積まれてある。 子供の頃は、よくここに入り込んで、かくれんぼなんかして遊んだものだったけれど。 「このガレージに、プレゼントがあるの?」 雪ちゃんは、止めてあったバイクのハンドルをにぎると、足でサイドスタンドを払った。 それから、ヒザを曲げてすばやくまたがると、振り返って言った。 「ほら、お姉ちゃんも早く後ろに乗って」 「なんで?」 「これが、タイムマシンだからだよ」 「バイクでしょ」 「そうとも言うね」 このバイクは、私たちの父のものだ。 とはいっても、父は遠い昔に、一番星になったので、これはずっとここで、ただホコリをかぶっていた。 そのはずだけど……。 「このバイクはね、実はタイムマシンなんだよ。お姉ちゃん。いまから一緒に、時間旅行に出かけてみよう」 「……はい?」 私は妹の顔を、まじまじと見つめた。 真面目な顔をしているけど、きっと冗談なのだろう。 タイムマシンごっこだ。 過去に行ったり、未来に行ったり。 思い返してみれば、子供の頃に、こんな遊びをしたような記憶もある。 「オッケー。行こう行こう」 私は、つきあってやることにした。 片足をあげて、バイクのうしろにまたがると、妹の細い腰に腕をまわす。 「じゃあ、お姉ちゃん。今から行くよ。 正直うまくいくかは分からない。 あたしも飛んだことはないし、ぶっつけ本番だからね」 「りょーかい」 「出発進行……っと」 風が吹いて、私たちの髪を乱した。 と、みぞおちを衝撃が貫いて、ぶわりと宙に浮く感覚がした。 「お姉ちゃん!」 雪ちゃんのポニーテールが視界をかすめる。 キーン、とひどく耳鳴りがする。 まぶしい光が刺して、目を開けていられない。 私は意識を手放した。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加