*群雲まよふ

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お蕎麦はおいしかった。 私は最後の一滴まで汁を飲み干しておなかをさすった。単純なもので、おなかが膨れると元気が出てくる。 私は満足して、お店のおばちゃんに声をかけた。 「ご馳走様でした。すみませんが、電話を貸してもらえませんか?」 「電話? ないよ、そんなもの」 「え? ない……」 「それよりお代。五銭だよ」 「五千円?!」 私は目をむいて叫んだ。 お蕎麦一杯、五千円?! どれだけ高級なお蕎麦だったんだろう。 気が付かなかったけど、トリュフとかキャビアみたいな、超高級食材が入っていたのかもしれない。 「ぼったくりバー」と聞いたことあるけど、ここは「ぼったくり蕎麦」だったのかも。 とにかく、ポケットから財布を取り出した。 中をのぞいて、青ざめる。 まずい! 千円ちょっとしか入ってない。 「あのう、カードって使えます?」 「カードだって?」 私は、千円札をカウンターの上に置いて、縮こまった。 「ごめんなさい。今、これしか持ってなくて……。残りはあとで払いにきます」 「何だよ、これ。ふざけてんのかい。お嬢ちゃん」 おばちゃんが低い声で言った。 「だからあとで払いに来ますって」 「そんなこと言って、ちょろまかすつもりだろ。信じられないね」 私はすっかり困ってしまった。 「で、電話を貸してもらえれば……」 「何を言ってるんだか、無銭飲食しくさって。大体そんなケッタイな格好して、最初から妖しいと思ってたんだ。はしたなく足を出したりして」 「はい?」 私は、ポカンとして、自分の服装に目をやった。 ボーダーのカットソーに薄地のカーディガン、スカートの丈は、ふくらはぎくらい。 「服、そんな変ですか? 別に、スカート短くないと思いますけど」 「はあ、まったく。いいからお金払いな。五銭だよ」 「えっと……。だから今、千円しかなくて」 「困ったね。警察に連絡してやろうか」 「け、警察?!」
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