戻らぬ記憶

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黄心が食器を洗っている背中を見つめ、心が熱くなってくる気がした。 俺は一体どうしたんだろう? 黄心を見ていると、嬉しくて心が震える。 俺は彼のことが・・・本当に好きだったのかもしれない。きっと親友。だからこんなに嬉しいのだろう。此処は俺の家では無いのに、俺は記憶を失って尚、この家に来た。自分の家ではない、この家に。 親友である・・・だと思う黄心の家に。 食器を片付け終わった黄心が、蒼賢の隣に布団を敷いて入ってきた。彼は裕福では無い。だから布団もご他聞にもれず煎餅で。今夜は何時になく気温が下がっていた。もう直ぐ冬がやってくる。此れから次第に寒さは増し、雪の季節になる。雪が降れば年明けも近い。蒼賢がこの家に転がり込んで1ヶ月が過ぎていた。 「白汪・・・」 小さく呟かれた黄心の声に、彼の顔を見てみた。黄心は布団に包まって、ガタガタと震えている。 「どうした。寒いのか?」 「ウン。今夜は妙に・・・さぶ・・」 蒼賢はちょっと考えて布団の端を持ち上げた。 「こっちにくるか?」 「え?」 「一緒に寝れば寒くないかも。ここに来るか?」 黄心は一瞬黙って蒼賢の顔を凝視した。 「どうした?一緒は嫌か?嫌なら別に・・」 「ウウン、嫌じゃない。いいの?一緒に寝て。」 蒼賢は仄かに笑って頷いた。 「お前が嫌じゃないなら、一緒に寝よう。俺も今夜は少々寒くてな。お前が来てくれると何かとありがたい。」 「ウ・・・ウン。」 黄心が頬を紅潮させ、蒼賢の布団に入ってきた。 「ほら。もっとこっちへ寄るんだ。端っこにいたら布団から背中が出て、もっと寒いぞ。」 蒼賢の胸に抱き寄せられ、黄心の心臓がドキドキと打ち始める。 ア・・・ 「あったかい・・・」 「ウン。行火ってとこか?」 蒼賢は、ギュッと黄心の体を抱き締めた。 アア、本当に暖かい・・・ 蒼賢の寝息が聞こえる。黄心は煩く騒ぐ心臓を宥めるように両手を握り締めた。 白汪・・・ 彼の鼓動が間近に聞こえ、嬉しくなる。蒼賢の胸に頬を摺り寄せ、彼に気が付かれないように、彼の体に腕を回した。 暖かい。ずっと一緒に居られたらいいな。このままずっと・・・
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