蒼賢

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蒼賢

下ろされた簾越しに、晩夏の青空が見えていた。夏の終わりを告げる蝉の声が、いやに騒がしい。 蒼賢は、自分の発した言葉に固まってしまった紫焔の顔を見つめた。 紫焔は、28という若い年齢には似合わず良く頭の切れる男で、蒼賢の傍付きを務めていた。 「主上、今何と・・・・」 蒼賢は頬杖を付いたまま、投げやりな声で答えた。 「だから、俺は女には勃たん。」 「それ・・」 「だから、俺の世継ぎは諦めろと言っているのだ。」 「ヒエ~!なんてこと!主上、それでは済まされないのですよ!此処はなんとしてでも勃てて・・・」 思わず顔を赤らめる。 「いえ、何とかしていただかなければ。」 蒼賢は顔を顰め、あらぬほうを見上げた。 「何ともかんとも。勃たないものは仕方ないだろう?お前は俺にどうしろというのだ?」 「し・・しかし、主上、貴方は今まで沢山の女性を宮に呼び寄せて、侍らせていたではありませんか。あれは・・・」 蒼賢が仄かに微笑んだ。 「あれはお前達が煩いから。ああしておけば、お前たちも安心すると思ったまでだ。」 「安心って・・・」 焦りと動揺で声が出せなくなった紫焔を、哀れだなあと思いながら。蒼賢はどっこらしょと立ち上がった。 「そういうことだから。世継ぎは蒼丞に任せる。」 蒼丞は、彼の腹違いの弟だった。彼は19。すでに結婚して姫御子を設けていた。
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