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【2】記憶の世界を訪ね、異世界を知る
メルタが再び目を開いたのは、それから三日以上が経ってからでした。
部屋に目立った装飾はありませんが、自分の周りだけ、見たこともない道具類が取り囲んでいます。それらが発しているたくさんの光は、何を表しているのでしょうか?
(あれは……心電図?……私の?)
部屋の暗さから判断すると、今は夜でしょうか。
(っていうか私、心電図なんて言葉、どうして知っていのかしら)
自分がなぜここにいるのかを探ろうとしますが、記憶が混乱していて事象が上手くつながりません。
(車が走って来て、避けられなくて、隊長様が驚いて、その後誰かが私に体当たりしてきて………???)
すべてを同時に経験したような気がするのですが、どうにも辻褄が合いません。
それでも何かを探ろうと、目を瞬かせ、体を動かそうとしたその時、小さめのアラーム音が響き、すぐに女性の職員がやってきたのでした。
「月島さん、月島奈津美さん。わかりますか。もしわかるようでしたら、一回だけ目を閉じて開けてみて下さい」
言われた通り目をしっかり閉じて開くと、その直後に医師と思われる人が現れたのでした。
(私は月島奈津美? でも、私はメルタ・フォーセンベリのはず)
メルタは医師の質問に、あくまでも月島奈津美として答えました。
現状についてはよくわかりませんが、それがこの場をスムーズにやり過ごす最善手に違いないと思えたからです。というのも彼らが発する質問は、すべて日本語だったのですから。
医師は、夜が明けてからもう一度検査をし、その後の容態次第で家族との面会を許そうと彼女に言い残して退出しました。
看護師からは『良かったですね』と言われましたが、メルタにはそれが良いことなのかどうか、判断が付けられないままです。
再び人の動きを感じられなくなった部屋で、改めて静かに記憶の整理をすることにしました。
すると、メルタは自分の中に二人分の記憶があることに気が付いたのです。
それはメルタ自身と、もう一人、月島奈津美のもの。
先ほど医師と自然に会話ができたのは、おそらく月島奈津美の記憶のおかげです。ということは、メルタの母国リューブラントの言葉は、ここでは通じないのかもしれません。
(ここは、おそらく日本という国。とすると、リューブラント王国は一体どこに?)
メルタは月島奈津美の頭の中を探ると、そこに地球儀を見つけることができました。
(元の世界より陸地が多いみたい。それに国も多い。それらの中の……ここが日本)
閉じたまぶたの裏に地球儀を投影し、想像でくるくると回してみましたが、メルタはその中に見覚えのある地形も、国名も見つけることはできませんでした。
(私は……ここに飛ばされてきたのでしょうか。それとも誰かに呼ばれて?日本とリューブラントの接点は何なのでしょう)
その答えはどうすれば見つかるのでしょうか。見つからなければ、あるいは生まれ故郷に帰ることができないかもしれません。
そういう考えが深まるにつれて、メルタはだんだんと不安になってきたのでした。
『見つけたっ! そこにいたのねっ!!』あの時、声はたしかにそう言っていたはずです。声の主は一体誰を見つけたのでしょうか。
(ひょっとしたら、あれが奈津美さんの声だったのかも。だとしたら、今、本当の奈津美さんはどこに?)
月島奈津美の体はここにあります。ただ、そこに入っているのはメルタ自身。何か目的があって、彼女は体を奪われたということなのでしょうか。
本当の自分の体が今どうなっているのかについては、一切わかりません。
(私、戻れる……のかな……)
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