【2】記憶の世界を訪ね、異世界を知る

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 それにしてもこの月島奈津美という子は、多くの知識を学んでいるようです。彼女の記憶を探れば探るほど、この世界のいろいろな事を知ることができたのでした。 (世界大戦、産業革命、宗教改革、封建制度、帝国支配、古代文明。ふーん、全部教科書に書かれているのか。それを余すことなく覚えているとは、なんと勉強熱心な女性でしょう)  そして、石器時代、クロマニヨン、ネアンデルタール、類人猿、…………サル。 (サル!? まさかこの世界はサルが統治しているとか! ひょっとしてこの体も?)  寝たきりで固まってしまっている体を何とか動かし、お尻の辺りをベッドとの感覚で探ってみます。もちろん、そこにシッポなどあろうはずなかったのですが。  引き続き頭の中を探ってみますと、すぐに"進化論"という言葉が引き出されて来たのでした。 (なるほど、面白い考えがあるものね。人間がこういう風にできていったかもしれないというのは、誰かに話してみたいわ)  ところでメルタは、ここであることに気が付きました。  兵器開発や産業革命など道具にまつわる記述や、宗教に関する記述があるのに、魔法についてだけ、どこにも触れられていなかったということです。  まぶたを開くと、先ほどの心電計の明かりが目に入ってきました。自分の腕や体には、管やらいろいろなものが取り付けられています。 (そういえば魔素を感じることができないわ。ここでは怪我や病気の治療をどのように行っているのかしら)  魔素とは、魔法を操るための根源的なエネルギーのこと。元いた世界では、酸素と同じように空間にあふれ、目では見られませんが、体内に取り込み、魔法という力に変えて取り出すことができたのでした。  しかしここでは、その魔素を一切感じることができません。酸素が無くなると人は生きていけなくなりますが、魔素については、まったく感じられなくなったところで、死に直結することはないようです。  とはいえ、産まれてこの方、常にともにあった魔素を感じられないというのは不自然ですし、不安を覚えざるを得ないというのが本音です。  この先の治療については、彼女の頭の中を探ればいろいろとわかる事もあります。けれども、それより何より、この世界は元いた世界とは成り立ちからして、まったく違うことを、メルタは寝たままで理解したのでした。 (朝になったらどうなるのかしら。頼れる人がいてくれたらいいのだけど。今のままじゃわからない事だらけで…………)  その時突然、頭の中に"転生"という言葉が浮かんできたのでした。   (ひょっとしたら、これがその転生!? アニメで見た……?)  もちろんメルタ自身は日本のアニメを見たことなどありません。その知識は月島奈津美の記憶の中にあるものです。  状況から考えてその可能性はあると考えたメルタは、すぐに記憶の中を探査し始めました。  しかしその情報量はあまりにも多く、ひとつひとつ理解しながら調べていくのは、なかなかに大変な作業で疲れてしまいます。  知りたいことはいくらでもありますが、現状はすでに理解の許容量を超えてしまっているようでした。  この先は必要な時に必要な情報だけを取り出して、その都度対応していくしかないのかもしれません。  そんな風に考えているうち、いつの間にかメルタは再び眠りについていたのでした。 【2】page 2/2
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