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それにしてもこの月島奈津美という子は、多くの知識を学んでいるようです。彼女の記憶を探れば探るほど、この世界のいろいろな事を知ることができたのでした。
(世界大戦、産業革命、宗教改革、封建制度、帝国支配、古代文明。ふーん、全部教科書に書かれているのか。それを余すことなく覚えているとは、なんと勉強熱心な女性でしょう)
そして、石器時代、クロマニヨン、ネアンデルタール、類人猿、…………サル。
(サル!? まさかこの世界はサルが統治しているとか! ひょっとしてこの体も?)
寝たきりで固まってしまっている体を何とか動かし、お尻の辺りをベッドとの感覚で探ってみます。もちろん、そこにシッポなどあろうはずなかったのですが。
引き続き頭の中を探ってみますと、すぐに"進化論"という言葉が引き出されて来たのでした。
(なるほど、面白い考えがあるものね。人間がこういう風にできていったかもしれないというのは、誰かに話してみたいわ)
ところでメルタは、ここであることに気が付きました。
兵器開発や産業革命など道具にまつわる記述や、宗教に関する記述があるのに、魔法についてだけ、どこにも触れられていなかったということです。
まぶたを開くと、先ほどの心電計の明かりが目に入ってきました。自分の腕や体には、管やらいろいろなものが取り付けられています。
(そういえば魔素を感じることができないわ。ここでは怪我や病気の治療をどのように行っているのかしら)
魔素とは、魔法を操るための根源的なエネルギーのこと。元いた世界では、酸素と同じように空間にあふれ、目では見られませんが、体内に取り込み、魔法という力に変えて取り出すことができたのでした。
しかしここでは、その魔素を一切感じることができません。酸素が無くなると人は生きていけなくなりますが、魔素については、まったく感じられなくなったところで、死に直結することはないようです。
とはいえ、産まれてこの方、常にともにあった魔素を感じられないというのは不自然ですし、不安を覚えざるを得ないというのが本音です。
この先の治療については、彼女の頭の中を探ればいろいろとわかる事もあります。けれども、それより何より、この世界は元いた世界とは成り立ちからして、まったく違うことを、メルタは寝たままで理解したのでした。
(朝になったらどうなるのかしら。頼れる人がいてくれたらいいのだけど。今のままじゃわからない事だらけで…………)
その時突然、頭の中に"転生"という言葉が浮かんできたのでした。
(ひょっとしたら、これがその転生!? アニメで見た……?)
もちろんメルタ自身は日本のアニメを見たことなどありません。その知識は月島奈津美の記憶の中にあるものです。
状況から考えてその可能性はあると考えたメルタは、すぐに記憶の中を探査し始めました。
しかしその情報量はあまりにも多く、ひとつひとつ理解しながら調べていくのは、なかなかに大変な作業で疲れてしまいます。
知りたいことはいくらでもありますが、現状はすでに理解の許容量を超えてしまっているようでした。
この先は必要な時に必要な情報だけを取り出して、その都度対応していくしかないのかもしれません。
そんな風に考えているうち、いつの間にかメルタは再び眠りについていたのでした。
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