【1】プロローグ : 二つの人生が交差する時

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【1】プロローグ : 二つの人生が交差する時

 人生を道に例えて言うと、その途上には必ず、自分以外の誰かの人生と交わる交差点のような箇所が、いくつか存在するのです。     『あなたに会いたい。もう一度だけでもいい、あなたに会いたい』  それは生き方を自身で選択しなければならない分岐点のことではなく、他人と関わることで進路が決定される、自分の道と他人の道が交差する場所。     『私を好きと言ってくれたあなたの、その言葉をもう一度聞かせて欲しい』  真っ直ぐ行くべきか、曲がるべきか。相手が通り過ぎるのをやり過ごすべきか。あるいは相手が導いてくれるのを信じて一緒に進むべきか。  判断次第では、自分が心に描いていたのとは、異なる生き方となってしまうこともあるでしょう。     『私もそちらの世界へ行きたい。そこであなたを見つけたい』  時には、他人の進路を無視してでも我が道を進もうとする相手に、妨害されることもあるかもしれません……。     『そして、あなたにも私を見つけて欲しい』 「お疲れ様でした、バルロー様。体の調子はいかがですか」  たくさんの植木が茂るフォーセンベリ侯爵邸の、広い敷地内の小道にて、業務報告を終えて詰め所に戻ろうとしていた青年を呼び止めたのは、この家の次女でした。  普段着とはいえ、上質な生地で仕立てられた薄い萌葱色を基調としたワンピースは、エメラルドグリーンの瞳と、よく手入れされた橙色の長い髪を引き立たせています。  少女の名前はメルタ・フォーセンベリ。魔法理工学高等専門学校から帰宅して、すぐにこちらにやって来たのでした。  リューブラント王国首都郊外。現在この館は、王室親衛隊によって警護されている最中で、呼び止められたこの青年は、彼女の許嫁《いいなずけ》だったのです。 「お帰りメルタ。また部活動を休んだのですか?」 「競技会が終わったばかりで今は落ち着いていますし、それより毎日バルロー様に会えるなんて、この機会をおいて他にありませんから」 「そうですか。昨日の体調不良は、まぁ、ただの風邪です。このところ気温差が激しいですからね。体の方は問題ありません」 「先週、落馬された件もあります。まだ本調子ではないようでしたら無理をなさらないで下さいね」 「大丈夫です。心配には及びませんよ」  青年の名前は、バルロー・ゼンシュタッド。茶色の瞳に黒髪の青年は、彼女より五つ年上の二十三才。親衛隊に入って二年目となります。  赤褐色と黒の制服には二列の金ボタンが並び、およそ軍服らしからぬデザインですが、それを身に着けているということは、ようするに彼が精鋭の中の精鋭であることを証明しているのでした。  親衛隊に相応しい強固な体躯は、じっくり確かめればわかりますが、高長身ゆえに、見た目ではがっしりとした風にはあまり感じられません。  王室にまつわる要人の警護を主な役目とする親衛隊は、王室専属ということもあり、選抜の条件として全員が貴族の身分を有している必要がありました。もちろん条件に違うことなく、バルローは公爵家の次男なのです。  そして彼は、このたびリューブラント王室への輿入れが決まった、フォーセンベリ侯爵家の長女、セレナの身辺警護のために、この館へ派遣された親衛隊の一人だったのでした。 「あなたの任務はお姉様の警護でいらっしゃいますから、私の相手などなさっている場合でないのはよくわかっておりますが……」 「そんな風に言う割には、私の交代時間を完全に把握されていらっしゃいますよね」 「もちろん」 「そういうメルタですから、当然知っていると思いますが、この後、私は小隊での訓練があります」 「ええ。ですから急ぎましょう。早くしないと休憩が終わってしまいますから。あちらにお茶をご用意しましたのよ」 【1】page 1/2
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