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彼女たちの脳は、何を食べても「期待どおりの味だ」と錯覚するようになった。
つまり、見栄えが良く、食感まで精巧に作られた食品サンプルであれば、その素材が蝋や粘土でも「おいしい」と感じられるわけだ。
先進医療のおかげで、我が家の食卓には笑顔が戻った。
ただし。
そんな「味覚」を持つ妻が、レシピも見ずに作った料理がどんなものになるか。
一年前の俺は、そこまで考えが至らなかった。
「お母さん、おかわりある? あぁでも、また太っちゃうなぁ」
「ふふふ、まだたくさんあるわよ。それにしても、お父さんは痩せてていいわよね」
ふくよかで肌ツヤの良い妻子が、美味そうに食事をする。それを見られるのは感無量だ。
俺は自分の施術を、後悔などしていない。
けれど。
妻のまずい手料理を我慢して食べる未来まで復活することになるとは、思いもよらなかった。
【了】
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