おこぼれ(オレの話を聞け)

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おこぼれ(オレの話を聞け)

 どうも。ふたたびまいりました、「使われなかったネタ」のコーナーです。  作家の沢木耕太郎さんが「世界は『使われなかった人生』であふれている」という本を出していますね。「暮しの手帖」に連載した映画評の前後にエッセイを配したものです。映画評とそれに呼応した始まりと締めのエッセイが味わい深く、各話のタイトルも凝ってます。映画をよく見る方はもちろん、さほど好きでもない、という方にもおすすめです。  私は自分から話すより、人の話を聞くタイプだと思います。そう表現すると、聴き上手っぽいですが、そんなことはありません。人見知りなのと、これから言う台詞を語尾までまとめて考えるのとで、いつも口を開く前に相手が喋り始めているだけのことです。 「はやくも君は、話を聞いてくれるからいい。うん」  仕事上がりの酒の席で、そう言ってくれた上司の方もいましたが、私ていどの聞きっぷりで褒めていただると困惑します。その(かた)がふだん、どれほど話を聞いてもらえないでいるのかと、心配もしてしまいますし。  前ページ冒頭の記憶の話について、例を挙げます。私は歴史小説好きで、司馬遼太郎の戦国時代ものなら「国盗り物語」から「新史太閤記」、「関ヶ原」、「覇王の家」あたりを何度か読み返しています。フィクションなので当然、史実と違うところもありますが、出来事の流れは覚えているということです。  でも、それらの出来事(イベント)が何年に起きたか、和暦だろうが西暦だろうが関係なく、数字が記憶できません。その時代で覚えているのは「鉄砲伝来」と「関ヶ原の戦い」、「家康が征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)に就いた年」くらいです。  一方で、「豊臣方の宇喜多秀家(うきたひでいえ)の家臣だった従兄弟が、お家騒動で国を飛び出した結果、関ヶ原で徳川方につくことになり、千姫事件を起こして、柳生家の家紋が二枚笠になった」という、教科書に載らない傍流のことなどは覚えようとしていないのに覚えています。  つまるところ、私は暗記が苦手なのです。  ところで上に挙げた人物、坂崎出羽守(さかざきでわのかみ)こと宇喜多詮家(あきいえ)は、いわゆる「クセが強い」人ですね。気性も荒かったそうで、天性のトラブルメーカーです。たぶん、いや間違いなく、「人の話を聞かない」タイプだったのでしょう。  現代人でもこういう人いるなあ、と思います。自分が話を聞いてなかったせいで周りが右往左往、てんやわんやで大変なことになっているのを、「自分が偉いからだ」と、どうやら勘違いしている風でもあります。まるで世界が自分を中心に動いているかのごとく振る舞う姿を見ると、私はとても疲れるのです。  家族や医者が止めても自動車を運転する高齢者や、一部のクレイマーなど、坂崎出羽の血を引いているのではないかと疑ってしまいます。  ここだけの話し、私の話をいちばん(まったく)聞いてくれないのは実の母親だったりするのですが、それを書くと小説が一冊できるかもしれないのでやめときます。 でわでわ。
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