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夢で会いましょう
明け方近く、夢を見ました。
妻と私は路線バスに乗って、関東の地方都市へ行きました。昭和の終わり頃に建てられたようなビルの立ち並ぶ、あまり流行っていない商店街を歩いていたところ、妻が声を上げました。
「THE ALFEEがやって来る! だって」
見ると、靴屋のウィンドウにポスターが張られています。どこか鄙びた感のあるデザインは、有名なアーティストのライブを告知するものとは、とても思えません。
「胡散臭いなあ。デパートの屋上でやるヒーローショウみたいなポスターだぞ」
「そう? 面白そうじゃない。しかも今日だって」
「まさか、観に行く、なんて言わないよね」
夢なので、いつの間にかライブ会場へ向かっています。
会場は築40年以上ありそうなテナントビルの地階にある、パブだかクラブだかでした。芸人の闇営業じゃあるまいし、と立ち尽くしていると、妻が先に階段を降り始めます。薄暗い階段の底で、目的の店の看板が光っていました。
およそ150平米くらいの店内では、ふだん接客に使っているソファが全部壁際に寄せられ、中央にはパイプ椅子の列が作られていました。まだ客が少なかったので、妻は中央最前列、私はソファ席のステージ寄り2番目に座りました。
あれよという間に人が入り、隣の人と肩が触れ合うくらいになりました。会場のそこかしこでコロナ感染予防アプリが、「密です。距離をとってください」と、電子音を放っています。
私の隣に座っていた男性がステージに向かいました。何をするのかと見ていると、彼は前説を始めたのです。それがものすごく面白くて、会場は大爆笑でした。
男性が席に戻ると、いよいよメインがやってきます。妻が私に顔を向けました。
「楽しみだね」
直後に歓声が上がり、入口のところに3人のシルエットが現れました。スポットライトが当たる前から分かるのは高見沢さんです。その後ろに坂崎さんと桜井さんが続いて入って……きませんでした。
「誰だ?」
なんと、高見沢さんを除いたふたりは、本物とは似ても似つかないおっさん達です。似せる気あるのかよ! と、叫びたくなるほどの質の悪さに、高まっていた会場のテンションが一気に下がりました。
前説だけの方がよほど良かったのに、と思ったところで、目が覚めました。
朝、妻に話すと、予想の10倍も薄い反応でした。
「なんで私がアルフィーのライブに行くの?」
誘ったのは貴女なのに、そう言われても困ります。前説がマジカルラブリーの野田クリスタルに似ていて、高見沢さん以外の二人がトム・ブラウンだったのは、きっと私のせいで、そちらは言い訳のしようもありません。おそらく前の晩、家族で「有吉の壁」を見ていたせいだと思います。
私は毎日のように夢を見ますが、前日に起きた出来事や鑑賞した映画、読んだ小説などに影響されやすいのです。仕事の夢は何百回と見ていますし、デス・スターのゴミ捨て場には何度も落ちました。キョンシーに噛まれたり、恐竜に追いかけ回されたりしたことだってあります。
今回、夢でTHE ALFEEのライブへ行くことになったのは、「たぶん」という憶測つきですが、エブリスタ関係者の影響ではないでしょうか。
まず、めでたく「スターダスト☆レビュー40周年」のライブに行かれた、濱口屋英明さんのエッセイを読んだことで、私の胸の奥に「ライブに行きたい」という刷り込みがされたのだと思います。
もう一人の方は、秋月一成さんと潜水艦7号さんが対談をされたことで有名な、「茶処PONーPOKO」のマスターでしょう。先日、私がお邪魔した際にお話をさせていただいて、いろいろとお話を伺った中で、THE ALFEEのことが話題に出たからだと思うのです。
(アコギかエレキか、という話だったのですが、気になる方はマスターに聞いてみてください)
お二人とも、若い頃から変わらず熱中しているものがある、という印象を私は持っています。ずっとファンでいる――今風に言えば「変わらぬ推し」があって、それが原動力となっている、大げさに言えば生きがいになっているように見えるのです。
私はそれほど熱中した何か、というのがありません。前のエッセイで述べたように、数年前に「小説を書く」という趣味を見つけましたが、以前は無趣味でしたし、特定のアーティストや芸能人のファンになったことがないのです。
かつて、「いかすバンド天国」、という人気番組がありました。正確に言えば、深夜番組の中の1コーナーだったと思います。PONーPOKOのマスターが「人間椅子」というバンドの名を挙げたときに気がついたのですが、私はたぶん「イカ天」を2、3回しか見たことがありません。当時は部活もあって、毎晩のように早寝だったからです。たとえそうでなくても、私は毎回のように見ることはなかったでしょう。そこまで入れ込むことがないからです。
その性分は、今更変えようもありません。ただ、我ながらつまらない奴だなと思うたびに、少しばかり気が滅入ります。
マスターとは他にも、小説や映画の話をしました。その中で面白いと思ったのが、ハリウッド映画になった「All You Need Is Kill」についてでした。マスターも私も、原作のライトノベルは読んだことがありません。マスターは映画を観られていて、私は小畑健が描いたコミックを読んだけれども映画は観ていなかったのです。
昨日、オンデマンドで映画を見ました。原作ラノベを読んでいないので、何とも言えないのですが、おそらくハリウッド版の方が面白いのではないでしょうか。少なくとも、よりエンターテインメントであることは間違いありません。
もし私がもう少し早く映画を見ていたら、マスターとの会話が盛り上がっただろうと思うと、残念でなりません。ですがハリウッド版を、未視聴だったからこそ、心に留まったというのも事実です。私も観た映画だったら、話題もそこまで盛り上がらなかったかも知れません。
今は、次にお店に伺うときに、「観ましたよ」という報告が出来るので、それを楽しみの一つにしています。
(了)
2022・06・16
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