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その部屋は、真っ白な四角い部屋だった。あるのは小さな椅子がただ一つ。どこか逃げる道はないか、そう探した美緒は天井に四角い切れ込みがあることに気づいたのだという。
あれはダクトというやつなのではないか。あそこからしか逃げる場所はない。美緒は椅子を踏み台にすると、ダクトをこじ開けて白い部屋を脱出した。そして、細い配管のような出口をずるずると四つんばいで這い始めたのである。
少し進んだところで、離れたところから“ばこん!”と大きな音がした。ああ、あの白い部屋のドアが破られた音なんだ、と気付いたという――。
「で、ここで夢は終わって眼が醒めたんだけど」
はああ、と美緒は派手にため息をついた。
「あれに追いつかれてたらと思うと、マジぞっとする。その前に醒めて良かった」
「あっはは、気の毒だけど、ただの夢でしょ?」
「そうなんだけど、夢なのにマジでヤバいって思う時ない?夢の中なのに、現実の自分も喰われるかもしれないって思うような夢!いやほんと、あれ追いつかれてたらあたし生きてなかったかも!!」
「そんな大袈裟な」
ていうか、と私は続ける。
「どうせ、夜遅くまでホラー実況でも見てたんでしょ。だからそんな夢ばっか見るんだよ」
私も美緒も、都市伝説の類が大好きなタイプだった。こっそりホラーゲーム実況を見たり、怪談を集めた動画を見て夜更かししてしまうことも少なくない。だからこそ、気が合うとも言えるのだが。
「流美ちゃん、おっはよー!あけましておめでとー!」
「あ、椿ちゃん」
このタイミングで、別の友人が登校してきた。私は彼女にひらひらと手を振る。丁度美緒の話も区切りがついたし、とその場を離れようとした時だった。
「あ、あのさ流美ちゃん」
美緒は私の筆箱から、小さくなった消しゴムを一つ取りだして言った。
「きょ、今日消しゴム忘れちゃって。このちっちゃいやつでいいから、貰えない?今度ちゃんとした大きな消しゴム買って返すから!」
「え?……いいけど」
新しい消しゴムも筆箱に入っているので、さほど問題はない。私は特に疑問も持たずに頷いた。
あんな小さな消しゴムで、今日の授業を全部やり抜くのは大変だろうに――というか何で消しゴムだけピンポイントで忘れるのだろう、なんてことを考えながら。
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