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***
その夜。
私は夢を見た。息を切らしながら、ダクトのような狭い通路を這って逃げている夢だ。
――あ、あれ?これ、ひょっとして……。
夢だ、ということにはすぐに気づいた。これが、美緒が話していた夢と同じもの――否、その続きだということも。訳のわからない恐怖にかられて、制服姿のまま必死でダクトの中を這いずって逃げる私。人が話した夢の続きを、その話を聴いた人間が見ることなどあるのか。そんな暢気なことを考えていられた時間は、そう、長くはなかった。
「ひっ!」
どすん、と重たい音が後ろの方でした。おそるおそる振り返った私は見てしまう。後ろの方に見える、ダクトの入口。その光を遮るように、ぬめぬめした黒いスライムのような物体が乗っているということに。
その塊には、かぎづめのようなものがついた何本もの足が生えていた。そして、ぎょろん、と真っ赤な目が覗いている。私が気づいたことを知ってか、きいいいい!と甲高い悲鳴のような声を上げた。そして。
ずるずるずるずるずるずるずるずる――!
「や、やだっ……!」
化け物は速度を上げてこちらを追いかけ始めた。私はパニックになりながらも、必死で這いずりながら逃げる。
夢なのは分かっているのに、恐ろしい。
何故か本能でわかるのだ。あれは、私の夢に侵入してきた“あってはならないもの”だと。あれに捕まったらきっと喰われてしまう。現実の私も、バリバリと骨も魂も残さず喰われて消滅してしまうのだと。美緒が何故、何度も怖かったと繰り返したのかはっきり理解した瞬間だった。
なんとか逃げ続けなければいけない。眼が醒めるまで。あれから逃げ切れるまで。でも、今の自分には現実の時間がいつなのかなんて知る術はない。そもそも本当に、現実の時間はちゃんと経過しているのだろうか。自分はちゃんと、この夢から抜け出せる時が来るのか。
生ぬるい空気が後ろから吹いて来る。生臭い臭いが漂ってくる。振り返る余裕などない。もうソレは、自分のすぐ真後ろまで迫っているのがわかる――!
「ひっ……」
私の靴を、何かがひっかけた。あの化け物のかぎづめだとすぐにわかった。
ああ、追いつかれて。
「いやああああああああああああ!」
そして。
私はベッドから転がり落ち――どうにか目を覚ますことができたのである。
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