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「どうしよう」
『どうしよう』
羽をぱたぱた動かす女の子の前で、円さんは落ち込んでいました。
円さんは、気がついてしまったのです。
今までの円さんは、嫌われるのが怖くて、傷つくのが嫌で、自分の気持ちを好きなひとに伝えられなかっただけなのです。星がキラキラ輝くふたりを応援していれば、自分は安心して勝負から逃げられていたのです。
だからこそ円さんは、運命のふたりに、何としてもくっついてもらうように努力をしていたのかもしれません。
決して純粋に好きなひとの幸せだけを願っていたわけではない。そんな自分に円さんは恥ずかしくなりました。
(こんな私が、誰かに好かれたいなんておこがましいのだわ)
すべてを忘れたくて消えてしまいたい。そのまま冷蔵庫を開けて、円さんは目を丸くしました。中にぎゅうぎゅうに押し込まれていたはずのチューハイは、どこにも見当たりません。
そういえば、女の子と一緒に食べるコンビニデザートやら、ちょっと変わり種のフルーツを入れるために外に出してしまっていたのでした。
(どうしよう、どうしよう)
涙目の円さんの手に、何かが触れました。女の子が、銀の天使ちゃんのマークが入った小瓶を持ってきたのです。
中身はまだ1枚のまま。まだ新しい当たりは出ていません。ちっとも集まらないのに、当たりを待つ日々はなんて楽しかったことでしょう。
女の子は小瓶を届けると、用は済んだとばかりにお気に入りのベッドに戻ってしまいました。そこは、妖精さんのお気に入りで飾られています。馬場さんにもらった謎の雑誌の切り抜きも飾られているのが、円さんには不思議でたまりません。
(妖精っぽくないな)
そう思いましたが、自由に「キラキラ」を集める妖精さんが羨ましくなりました。妖精さんを見ていると、自分の「好き」を大事にすることを思い出せるような気がするのです。
(私の星も、優しく磨いたからもっと光るようになるのかしら)
嫌だ、嫌だと思わないで、もう少し大事にしてみたら、円さんも変われるでしょうか。馬場さんの横で笑っていられるでしょうか。それができたら、どんなに幸せなことでしょう。
(好きです)
ふっと円さんが微笑んだそのときです。部屋の中に飾っていた女の子の「キラキラ」が、文字通りキラキラと輝き始めました。円さんの胸の星もキラキラと瞬いています。
「な、なに?」
『な、なに?』
「怖くないよ」
『怖くないよ』
女の子を慌てて引き寄せながら、円さんは自分に言い聞かせるように声を出しました。
慌てる円さんをよそに、女の子は笑いながら腕の中をすり抜けていきます。
そしてキラキラと光る円さんの胸の星は、いつの間にか円さんの中に吸い込まれて見えなくなってしまいました。
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