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彼の手が私の首を強く締め付けていく。あらかじめ息を止めていた私は、彼の癇癪が過ぎるのをじっと待った。すると思いの外早めに彼の手の力が抜け、喉に空気が流れこんだ。
次の瞬間、乾いた音と鈍い音が混じったような音が部屋に響いた。視界から彼が消えたと思うと、続けて2度、音が響いて視界が揺れた。
髪の毛を掴まれて、無理やり彼の方へと顔を向けさせられる。頬に疼くような痺れが走って、初めて叩かれたのだと気付いた。
この痛みは私の痛みではない。彼が負った、心の痛み。
私はそっと、彼の頬を撫でた。
「ごめんね、不安にさせたよね。大丈夫だよ、私は怜斗の傍にいるよ。スカートなんか、欲しくない」
そう言って、彼の唇に小さなキスをした。一瞬、息を飲んだ彼は髪の毛を掴んでいた手を離すと、おもむろに私を抱きしめた。彼の身体は、小刻みに震えていた。
「彩葉……、ごめんよ、ごめんよ。彩葉に限ってそんなことないって、わかってるのに。ごめんよ」
「いいから、大丈夫」
震える背中をゆっくりと繰り返し擦る、背中はまだ汗ばんでいた。私たちの素肌はずいぶん熱を帯びているはずなのに、擦る手に温度を感じなかった。
彼はやさしい。自分でコントロールできないほどのやさしさゆえに、私がそれを受け止めなければならない。そうしなければ、彼はきっと壊れてしまうから。
静寂と共に、一段と闇が降りた。私からまた、色を奪いながら。
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