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 ショーウィンドウの前で、私は足を止めた。すっかり闇が落ちきった街の一角に放たれた輝きに目を奪われたからだ。  ライトアップされたショーウィンドウの中には、そこだけ世界が違うほどに鮮やかなオレンジのプリーツスカートを履いたマネキンが飾られていた。  通勤経路として毎日歩いていたが、今までまったく気が付かなかった。それとも、最近陳列したのだろうか。  見惚れていると、ガラスに映る私が見えた。  オフィスカジュアルではあるものの、ダークトーン一色の高級感も感じられないもったりとしたパンツスタイル。分厚い黒縁の眼鏡に、手入れもままならないツインテール。唯一の色味はジャケットから覗く白のブラウスだけ。  単に服装だけというのならまだしも、何より色がないと思ったのはガラスに映った私自身の顔だった。  感情が見えない無機質な目、化粧っ気のない肌、荒れた唇。  古ぼけた本のようだと思った。真っ白で綺麗だった紙が、色褪せて黄色くなったあの感じ。女も簡単にそうなる。どんなに真新しく輝いていても、大事にしなければ褪せるのは簡単だ。 「彩葉(いろは)、何スカートなんか見てるの?」  彼の声が聞こえて、私は咄嗟にスカートのマネキンから目を逸らした。 「ううん、なんでもない」 「まさかそんなもの欲しいなんて思わないよね。誰に見せるわけでもないんだからさ」  うん、と答えて私は彼のもとに駆け寄った。彼の手が私の頭をやさしく撫でる。  彼はどうしようもなくやさしい。  それに応えることは、恋人として当然の義務だ。
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