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結局のところ、彼との約束は守れてはいなかった。
出勤時にあの店の前を通る。その度にスカートを見ていた。胸に湧き上がる罪悪感や背徳感とは裏腹に、懐古とあの頃抱いていたキラキラの未来を思い出しては高揚していた。
彼と付き合って5年。このような気持ちを抱いた自分が信じられなかった。彼の愛を受けたくて、友も家族も、女も色も何もかも捨てた。私には一つまみの残滓すらないと思っていたから。
それなのに生まれてしまった感情。今さらそれをどう扱っていいのか私にはわからなかった。あるいは、溢れてしまうことを抑えるための防衛本能なのかもしれない。
来る日も来る日もスカートを眺めては、訪れることのない未来に想いを馳せて、それをエネルギーに日々の仕事をこなした。
そんな日々が二週間ほど続いたある日、残業もなく仕事を終えた。
彼にLINEで連絡を入れた。既読が付かないところを見るとたぶん寝ているのだろう。『これから歩いて帰るね』とメッセージを残し、いつ振りかわからない一人きりの帰路に着いた。
夕暮れの街はコントラストが激しくて鮮烈だった。
世界中の色を太陽のオレンジが上塗りしていく。どんなものでさえ、この色に染められれば美しく輝いて見えた。あのスカートも例外ではない。
その輝きは群を抜いていた。まるでこの世界の主役とでも言わんばかりに、太陽の光を吸って眩しさに拍車をかけている。佳苗と見た、あのときの輝きのように。
手を伸ばせば届くところに、あの日見た夢がある。あの日の夢が、呼んでいる。
「お似合いですよ、きっと」
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