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 不意に声が聞こえて、思わず肩をびくりと震わせた。  店舗の入り口に、西日を背にして女性が立っていた。眩しくて顔がよく見えなかったが、声とシルエットから察するに女の人だということはすぐにわかった。でも、何かが妙に引っ掛かった。 「お手に取ってご覧になりませんか? 毎朝、開店前に見てるみたいですから」  そんな台詞から、彼女がここの店員であることが窺えた。  毎朝のルーティンを見られていたのは恥ずかしくも感じるが、彼女の声はどこにも嫌味がなく、すんなりと受け取れた。 「い、いえ、結構です。会社帰りですし、似合わない、ですし」 「そんなことないですよ。お客さんのこと毎日見てるからわかります、ぶっちゃけすっごく素材が良いんですよ。あたし、女性を見る目はあるんで。お客さんなら絶対に似合う色です」  色――。  私にとっては初対面だが、なぜか彼女の言葉は信用できた。力強く、なのに自然で、自分の言葉に迷いがない。  彼女の言葉に導かれたい。そう思う自分に、薄々気付いていた。 「あたしがデザインして初めて商品化したスカートなんです。お客さんみたいな女性にこそ、履いてほしいんです」  そのとき、西日が雲に隠れて眩しさが和らいで、彼女の顔がはっきりと見えた。同時に、引っ掛かっていたものが何なのかがわかった。  懐かしさに胸が沸いた。 「もしかして、佳苗……? 佳苗だよね?」  え? と目を丸くして戸惑うように首を傾げる彼女。  金色に染まった髪、くっきりした化粧、個性的な服装。  あの頃とはずいぶんと違うけれど、自由の色をキャンバスに落としたようなこの女性は、間違いなくあのとき未来を描いていた佳苗だった。 「私だよ、彩葉だよ」  一瞬の間をおいて、彼女は口元を両手で覆った。  これまでのことを思うと申し訳なくて、私は俯いた。しかし、彼女は私を両手で抱きしめた。 「彩葉! ホントに、ホントに彩葉だよね! 今までどうしてたの! ずっと、ずっと会いたかった」 「ごめん、ごめんね、佳苗」  会いたかった――。 それだけで、私はどうしようもなく救われた気がした。  高校以来の再会に、私たちは涙ながらに『会いたかった』『ごめんね』を繰り返して空白の時を埋め合った。
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