依頼

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「もしもし、杏子?」 「もしもし、紗香ちゃん?久しぶり!」 「本当、すごい久しぶりね!元気?」 「うん、元気だよ。紗香も元気してる?」 「有難う。おかげ様でこっちも元気よ。本当、久しぶりね。高校卒業以来だから、もう7年ぶりか。でも、声の感じとか、全然昔と変わってないよね。本当元気そう」 「うん、おかげさまで、何とか元気にやってるわ。紗香ちゃんはどう?……何か、少し疲れてない?」 「うん、ちょっと身体が重くてさ」 「えっ?どこか悪いの?」 「ああ、病気とかそんなんじゃないの。ただ、ここのところ、ちょっと仕事が忙しくてさ」 「ああ、そういうこと。ちゃんと寝られてる?ご飯食べてる?」 「大丈夫。大したもんじゃないから。たまたま季節的に忙しいだけで、あと二、三日もすればもとに戻るから」 「なら、いいけど」 「でも、相変わらず鋭いね。流石杏子ちゃん」 「流石って?」 「だって、杏子って有名だったじゃん。不思議な力があるって」 「……ああ、その話?あれは、もう、昔の話よ」 「でも、確かに凄かった。杏子の占いは良く当たる、あれは本物だって有名だったもんね」 「確かに高校生の頃は、何て言うか、勘が冴えていた感じだったし、占いにも本気になってたわ。でも、大学に入ったあたりから、何だか急に勘も鈍くなっちゃってね。興味も無くなってしまったの。だから、大学時代の友達なんて、私が占いやってたなんて誰も知らないと思うよ」 「そうなんだ。封印しちゃったの?」 「もともと封印とかいうほど大したもんじゃないわよ。単に趣味として、やってただけなのよ」 「でも、本当に良くあたってたよ。自分の一生にかかわる大事なことなんかでも、色々相談されてたでしょう。あたし、香川君から聞いたよ。東京の大企業に就職が決まってたけど、杏子のアドバイスに従って高校卒業と同時に家業を継ぐことにしたら、それが結局大正解だったって」 「ああ、あれね。確かにあんな大企業が三年後に倒産するなんて誰も思わなかったでしょうね。うん、確かにあの頃は勘が冴えわたっていたけどね。でも、今は、本当、ダメなのよ。もう、何て言うか、興味が無くなっちゃったっていうか……だって人の一生に関わるような大事な事でしょう。それってやっぱり、心のどこかで負担になっていたと思うの。自分でも知らず知らずのうちに、そういう精神的な疲労みたいなものが溜まっていって、もういいや、て感じになったような気がするな。何て言うか、よっぽど、自分自身に大きな危険が迫ってくるとか、物凄く大きなショックを受けるとか、そんな出来事でもないと、多分目が覚めないような気がするのよね」 「そうか……まあ、杏子がそういうなら、しょうがないわね……」 「え、ひょっとして、何かあるの?」 「うん。実はね。愛美ちゃんって覚えてる?」 「ああ、覚えてるよ。ちょっと大人しめであんまり目立たないけど、優しい感じの子だったよね」 「うん、あたし、彼女とはたまたま同じ大学に行ったんで、卒業後も親しくしてたんだけどね。彼女、今、山野君とつきあってるの」 「えっ、山野君ってうちのクラスの山野君?」 「そう、あの山野君。覚えてるでしょ?」 「いたいた、山野君。資産家の長男でしかもイケメンでね。覚えてる、覚えてる。あの二人がつきあってるの?」 「三年前の同窓会で会った時から、付き合い始めたみたいでね。で、どうもこの間、彼女プロポーズされたみたいなの」 「やったね。いいじゃないの」 「それでね。愛美ちゃんとしては、勿論嬉しいんだけど、やっぱり結婚となると一生のことでしょ?彼のお父さんも手広く事業をやっていて、長男の山野君が跡取りになるんだろうけど、ほら、こういうご時世だし、大きな会社っていってもこれから何があるかわからないしね。本当に彼と一緒になって、幸せになれるのかどうか、誰かに占って欲しいみたいなの。でも、あらためてどこかの占い師に相談に行くのも、何だか彼の事を信頼してないみたいで、やりにくい。そこで、香川君の時に、あの大企業の倒産もぴたりと当てた杏子ちゃんに相談してみたらどうかと思ったんだけど。これ、あたしのアイディアなんだけどね」 「ふーん、そういうわけね。うーん、それは勿論、みんなには幸せになって欲しいけど、何しろ、さっき言った通り、あたしはもう占いって、やってないからね。本当に申し訳ないけど、お役に立てそうにはないわ。ごめんね」 「ああ、謝ることは無いのよ。それはしょうがないわ。無理にお願いするわけにもいかないし」 「うん。分かってもらえて有難う。でも、二人の幸せは、勿論願ってるわよ。愛美ちゃんが山野君のことを本当に好きなんだったら、それでいいんじゃないかなあ」 「そうだよね。きっと、そうだよね。有難うね、杏子」 「もしもし、紗香?」 「ああ、杏子?どうしたの、珍しいじゃない」 「うん、この間は電話有難うね。高校時代のクラスメイトと話せて何となく懐かしかったから」 「うん、あたしも楽しかった。今度みんなで会いたいね」 「うん、いいね。リモートでもいいしね。あ、それでね、電話したのは、この間の山野君と愛美ちゃんの話なんだけど」 「ああ、二人の結婚の話ね」 「うん。で、確かにもうあたしは長いこと占いはやっていないんだけど、この間話を聞いてみて、久しぶりにやってみたのよ。まあ、どのくらい勘が鈍っているか、やっぱりもう全然ダメなのか、ちょっと試してみたくなってね」 「ああ、そうなんだ。で、どうだった?」 「まあ、やっぱり鈍っていて、あんまりはっきりしたことは分からなかった。でも、何て言うか、物凄く限定的だけど、ぼんやりと視えてくるようなものもあってね。山野君のお父さんのビジネスは、多分、将来的にもうまく行ってるような、そんなイメージは浮かんだのよ」 「本当!?良かった!じゃあ、多分大丈夫そうだね」 「うん。あくまでも断片的な感覚で、勿論、保証は出来ないけどね。とにかく、そういう感覚はあった。他にはもう何も視えなくて、漠然としてて申し訳ないけど、まあ、これが今の私の限界だわ。勘弁して」 「勘弁なんて、とんでもない。凄く嬉しいニュースだわ。有難うね、杏子ちゃん。愛美にどう伝えるか、ていうかそういう話なら黙っていてもいいかもしれないけど、とにかく安心したわ」 「そうね。黙ってていいんじゃない?」 「そうするわ。でも、本当に良かった。これで私も二人のことを安心して見ていられるわ。杏子、本当に有難うね。今度みんなで会いたいね。また連絡するわ」 「有難う。愛美ちゃんに宜しくね」 「もしもし、杏子?」 「ああ、紗香?電話かかってくると思ってたよ」 「もう、本当に信じられなくて。二人とも、あんなに幸せそうだったのに……」 「よりにもよって、新婚旅行先で事故に遭うなんてねえ……」 「今、クラスの中で連絡回してるけど、お葬式はお身内だけでやるみたい。だから、暫くたって落ち着いたら、お焼香に行こうかなんて話も出てるけど……とにかく、私は、もう何か呆然としちゃって。折角杏子にも無理言って占ってもらったのに……」 「私のことはどうでもいいのよ。とにかく、ご家族も気の毒だし、何より二人が本当に可哀想ね。でも、紗香もあんまり気に病まないようにしてね。貴女まで立ち直れなくなっちゃったら、それこそ二人も悲しむような気がする」 「うん、有難うね。杏子……」  まあ、あの二人が事故に遭うのは、わかってたけどさ。  紗香から電話もらってから、試しに何年かぶりに占ってみたら、予想外に力が残っていたから、自分でも驚いたけどね。久しぶりに勘が戻って来たって感じがしたわ。まあ、確かに、ちょっとしたショックもあったから、あれが神経に刺激を与えて、昔の力が復活したのかもね、ふふ。それにしても、あの紗香も、私に占う力だけじゃなくて、"呪う力"もあることは、気づいてないようね。さすがにこの力は滅多に表に出さなかったからね。  だって、あの山野君が、よりにもよって愛美なんかと……本当に許せなかった。あたしも狙ってたのに。まあ、これはこれでいいのよ。これで跡取りは次男になったわけだし、今度は彼をターゲットに猛アタックよ、ふふふ。 [了]
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