27人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
1
ここで、こうして朝を迎えるのは一体、何回目になるのだろう――。
そう考えながら、新山隆司は自分で淹れたばかりのコーヒーをゆっくりすすった。
ほとんど舐める様な慎重さだった。
マグカップの縁の滑らかさが、当たる唇に心地よい。
表面に雪だるまが描かれやたらと背が高いそれは、おそらく景品か何かだったのだろう。
彼にしっくり似合って見えていたのは、果たして自分だけだったのだろうか・・・・・・
二回目の成人式も間近だった男が自ら選んで使うには、どうにも可愛らし過ぎる品だと新山は常々踏んでいた。
『女性からプレゼントとして贈られた』という可能性には、気が付かないフリを決め込んだ。
――つまり、最初から全く無視をした。
ここを訪れるとそればかりを使っているので、新山の手にもすっかり馴染んできた。
その度に、新山よりも確実に手の小さな持ち主が性懲りもなく、このカップを倒して引き起こしていた大惨事を思い出す。
隣の席だった新山も、もれなく被害を被っていた。
今、新山が飲んでいるのは砂糖もミルクも入れていない、いわゆるブラックコーヒーだ。
不思議とほんの少しも苦くない。
鼻先をくすぐる、カップから立ち昇る湯気すらも何やら甘く感じられる。
最初のコメントを投稿しよう!