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僕は窓から離れて、手にしていたルキアノスの原書をレジ台におく。
「初めまして。坂田と申します。四時にお約束していた坂田智です。あの……如月晴さんはいらっしゃいますか」
「はい。如月は僕です」
坂田と名乗った少年は、襟に私立清浦高校のイニシャルKが赤字で刺繍されたシャツを着崩しているが、それがすれた感じもなく、むしろ彼の整った目鼻立ちを際立たせていた。ニューバランスの青いスニーカーもうまく履きこなしている。
そのうしろには同じ制服を着た二人の少年が立っており、僕に頭を下げる。
一人は眼鏡をかけ、ふんわりとした雰囲気の肉付きのよい子。もうひとりは首元までしっかりボタンをとめており、透明感のある、色が白く優しげで、全体的に線の細い子だった。
僕は緊張しているらしい彼らに、敢えて大げさなくらいににこっと笑う。
「石川から連絡もらっていた件だよね。なかに入って。飲み物を出すよ。何がいい?」
野村鼎の語り
「カフェラテとコーヒーのホット、コーラでよかった?」
如月さんが俺たちに飲み物を出してくれた。この古書屋はカフェにもなっている。ちょっとした隠れ家みたいでおしゃれだ。ソファと、小さいけれど波形のベッドや、北欧のものらしい机や椅子がある。壁をくりぬいた本棚いっぱいに本が詰め込まれているけれど、整理整頓されていて、俺たちが連想していたほこりっぽい古書屋とは少し違う。窓際には色とりどりのフラッグガーランドが飾られていて、可愛い。
「こっちは野村鼎、眼鏡をかけてるほうは森昭彦です」
坂田が紹介してくれるので、俺と森はぺこりと頭をさげた。
「それで、古典の成績が壊滅的だっていうのは、誰かな」
「は、はい。俺です」
俺は緊張していた。ついつい、コーヒーにどぼどぼクリームと砂糖を注いでいく。
「どのくらい壊滅的なのかな」
アシンメトリーに整え、ツーブロックにした髪をすっとかき上げ、如月さんが俺たちの前に座った。ロングカーディガンとグレーのサマーニットがおしゃれで、俺がイメージしている文系大学院生とはまったく違っていた。目鼻立ちはくっきりとしていて、目がやや大きめ、鼻は高くすっとしている。180センチ近い身長でなければ、女性と見間違えるほどに肌が綺麗。全体的に華奢で瀟洒。このお店にぴったりの人だ。
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