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「何とも微妙な夫婦漫才でした。さて、気を取り直して、素晴らしい歌声を堪能しましょう。原田先生による独唱です。ピアノ伴奏は僭越ながら私岡崎一翔がさせていただきます」
司会の岡崎先生がピアノの椅子に腰をかける。続いて舞台に現れたのは、まさにサンタクロースそのものの人物だった。サンタ姿の堂々としたぽっちゃり体型に、白いつけ髭まで。
「サンタさんだ!」という子どもたちの歓声を聞きその輝かんばかりの表情を収めながら、あっと俺は思い出す。原田先生は香織さんの同期だ。面識こそなかったが、会話にのぼることもたびたびだった。
岡崎先生の繊細なピアノ前奏が、会場をしんとさせた。続いて響く朗々としたテノール。
「Silent night…」
歌詞の二番は日本語で歌ったので、一緒に歌う子どもたちも見受けられた。そんな我が子を見やり、笑顔を浮かべつつ涙する親も。
俺にはそんな親の気持ちを想像することしかできない。きっと日常生活の大部分をつらい気持ちが占めているに違いない。そんな中で今日の出来事がほんの少しだけでも希望になれば……。
俺は夢中でそんな親子の姿を写真に収めた。
クリスマス会といっても、病院の催し物だ。それも重篤な疾患を抱える子どもたちのための。長時間の拘束はそんな子たちの体力を奪う。残念ながら、このわずかな時間でも退室する子が数人いた。
早くもラストとなる。
「ラストはジャズトリオの演奏です。『荒木真希トリオ』の素晴らしい演奏をお聴きください」
女性一名、男性二名のトリオだ。事前に知らされていた情報によると、リーダーの荒木真希さんがドラムで、脇を固めるピアノとベースが男性。三人ともサンタの衣装だ。
真希さんがやや恥ずかしそうにあいさつをした。
「今日はお招きいただいて、とても嬉しいです。最初に演奏するのは、『ジングルベル』」
誰もが知っているクリスマスソング。アップテンポにアレンジされたグルーヴ感あふれるサウンドに、会場が一体となるのを意識する。俺は客席の一番後ろに移動し、広角レンズでとらえた。
ジャズは全く知らない俺だが、危うく仕事だということを忘れそうになってしまった。誰もが知っているクリスマスソングなのに、ソロ回しでは全く違った曲になっている。特に真希さんのスリリングなドラムがいい。
放心しつつ無心で撮っているうちに曲が終わり、会場は拍手に包まれる。
「早くも次でラストとなってしまいます」
真希さんのその一言に、会場がしんと静まった。子どもたちの体力を考えるとこれが限界なのだろうが、惜しい。
「いつか、みなさんが元気に笑い合える日が来ることを願って。聴いてください、『星に願いを』」
しっとりとしたバラードだ。これもみなが知っている曲。ピアノが泣かせてくる。
俺は前方に移動する。じっと聴き入っている子どもたちの表情を、涙ぐむ親の表情を、目を赤くしながらシンバルをたたく真希さんの表情を、仕事を忘れて聴き入る病院スタッフの表情を。そして、なぜか俺の方をぼんやりと見つめている香織さんの表情を。
撮って撮って、撮りまくった。
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