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「え」
「んじゃお前達。後は頼んだ」
手錠を掛けられ、無数の警察に囲まれたペタルデスはそのまま連行された。「逮捕」という極めて現実的な手段で捕まったペタルデス。ここ最近非常識なことばかり目にしてきた僕にとっては、逆に珍しく見えた。
「まぁ仕方ないな。人間襲ったって明言したもんな」
「彼女って法律で捌けるんですかね」
「まぁ無理だろ。証拠不十分で釈放か、精々保健所のどっちかかな」
先生は涼しい顔で見送ると、大きくぐっと背伸びをした。
「さてライカ君。さっきのヴァルツ号に、何か違和感を感じなかったかい」
「えぇ。僕達に全く攻撃をしませんでした……肉塊に噛まれたのに」
肉塊に噛まれた者は、見境なく周囲を攻撃するのが特徴だ。
実際に噛まれた僕もそうだった。先生や警部、編集長。直前まで仲間だった人間でも関係なく、ひたすらに暴れ回ってしまった。
ーーねぇ。あの犬、ライカと同じなんだよーー
僕の中でアンジュが声を上げた。
ーーロシャウドの屋敷が燃えた時、ライカはあたしに噛まれて生き延びたでしょ。あの時倒れていたヴァルツ号も、一緒に噛んだの……ーー
燃える屋敷の中で、気絶していた僕は肉塊だったアンジュに噛まれて救われた。あの時は余裕が無かったから気にしていなかったが、確かにヴァルツ号も僕の隣で倒れていた。致命傷を負って僕の中の肉塊が目覚めたように、ヴァルツ号も前の戦いの中で傷を負い、体内の肉塊が目覚めたのだろうか。
「つまりあれか。彼も君のように、ちょっと変わった狼人間なんだろうな」
「僕達を攻撃せず、ペタルデスだけ攻撃した……もしかして、彼は僕達が仲間だと思っているんじゃ? 」
小さな期待を込めて言ってみたが、先生は首を横に振った。
「それはないだろ。だって君もアンジュも敵だったじゃないか」
「あ、そうですね……」
ーーご、ごめんなさい……ーー
一つの体の中で、僕達二人は頭を下げた。
「ともかく奴を放ってはおけない。『群れ』も気になるが、一旦帰って……」
「失礼。近くでペタルデスの匂いがしたのですが、見ませんでした? 」
背後から声を掛けられた。
勢いよく振り向いて身構える僕達。立っていたのは見慣れた顔。何度も出会った仲の人物……しかし決して安心出来ない、望まぬ知人だった。
「……いきなり身構えられるとは心外ですわ」
「やぁベルベット。背中から不意打ちしなかったことには感謝するよ」
白の狼人間、ベルベット・ロシャウド。
相手の心を操る力を持つ怪物が、僕達の前で優雅に微笑んだ。
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