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【1】虹色と犬
ペタルデスは迷っていた。
眼下には数人の子供がいる。彼女の鼻によればどれも悪い匂いはしない。
しかし自分の愛する指導者に捧げる物として、どれが一番相応しいのか……まだまだ幼い彼女にとって、それは中々に重要な問題であった。
「どれが良いと思う?
ウチは右の奴‼︎ そっちは? ……ってああ。また死んじゃったんだっけ」
虹色の髪をもつ彼女は、一人で会話をしていた。
よく聞くと二つの声は微妙に違う音を発している。二人目は既に居ない三人目に対して声を掛けたが、当然ながら返事は無かった。
「でもさー。女の子はこの前捕まえたでしょ? 次は男の子が良くない?
えー。男って筋張ってて硬いのが多いもん。ウチは右一択‼︎ 」
一人目は不満げに唸ったが、もう片方の意思を曲げるまでの理由は思いつかないようだった。やがて重い腰を上げると、つかつかと歩き出す。
「それじゃ、狩りますか‼︎
一発で仕留められるかな? 」
それだけ言うと、彼女は勢いよく飛び降りた。
地面にいた少女に狙いを定め、着地と同時に腕を振るう。
鋭い爪が柔らかい肉を引き裂き、鮮血が地面に飛び散る。次の瞬間には首に噛み付いて呼吸を止め、再び跳び去る……それが「いつも」の筈だった。
「……あれれ。君は誰?
横取り? これはツキ様のだからあげないよ⁉︎ 」
ペタルデスの爪が少女の首に突き刺さるその瞬間。
彼女の体に黒い影が激突した。小柄な体は勢いのままに吹き飛ぶが、即座に受け身をとって衝撃を殺す。ペタルデスの腕を離れた子供達はめいめいに悲鳴を上げ、すたこらさっさと逃げ出してしまった。
「あー、行かないでー‼︎ 怖くないよ、食べるだけだよー⁉︎
もーっ‼︎ 邪魔する奴は許さないからなー⁉︎ 」
ペタルデスの前に立ち塞がるように現れたのは、黒い獣だった。
低い唸り声を上げながらゆっくりと足を動かし、隙を窺っている。当然ペタルデスも身体を低く構え、来るであろう攻撃に備えた。
「……ん、この犬見覚えあるような?
誰だっけ? 覚えてないけど……まぁやっちゃおっか‼︎ 」
彼女が飛び出すと同時に、黒い犬も口を大きく開けた。
虹色と黒。二つの影が、人通りの消えた道でぶつかった。
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